Utility 3.0の時代は、多様なプレイヤーが市場に参画し、電気事業のエコシステムが豊かになることが期待されている。そうならなければUtility 3.0の時代は到来しないといった方が正確かもしれない。しかし、わが国の電気事業におけるスタートアップの層はまだ薄い。大手エネルギー事業者によるCVC(コーポレート・ベンチャー・キャピタル)設立など、投資意欲が旺盛な今こそ、わが国のエネルギー・ベンチャーをより活発にしていくには何が必要か、4回の連載を通じて考えたい。
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層が薄いのは起業マインドの低さと敷居の高さが原因。一方、投資は活発

 
 近年エネルギー・ベンチャーが活況であるといわれるが、新規上場に至っているのは、グリムス(2009年3月)、エナリス(13年10月、19年3月上場廃止)、イーレックス(14年12月)、フィット(16年3月)、レノバ(17年2月)と2~3年に1件という頻度である。また、電力自由化あるいはFITのような制度変更が成長の起爆剤となっているケースが多く、技術・サービスの新規性や競争優位性によるものは多くはないとも評されている。なぜわが国のエネルギー・ベンチャーの層は薄いのであろうか。

 そもそも日本は、起業マインドが低い。一般財団法人ベンチャーエンタープライズセンターの「起業家精神に関する調査」によれば、わが国の起業志向は調査対象67カ国中、下から2番目と低位にある。さらにエネルギー産業は、実績のある技術を求められること、付加価値を高めづらいこと、規制の複雑さや厳格さ、将来の政策変化に対する警戒心などもあって、起業家にとっては敷居が高い。

 しかしUtility 3.0の世界に向けた模索の中で近年、大手エネルギー事業者がベンチャー企業の協業を進める動きが活性化している。例えば2018年10月にENECHANGEに出光興産、東京ガス、北陸電力を含む国内外の7社が総額7億円を出資したほか、19年6月から8月にかけてネクストエナジー社に対して東京ガス、四国電力など国内大手エネルギー事業者が資本提携を発表している。旺盛な資金需要に後押しされ、事業会社によるCVC(Corporate Venture Capital)の設立も続いている。
 

事業が成長する3つのステージと、大企業との協業の鍵は

 
 この機運を捉え、2000年代のベンチャー・ブームに創設されたベンチャー企業やCVCの多くが撤退や縮小を余儀なくされた経験を繰り返さないためには、何が必要なのであろうか。もちろん規制の改革も必要で、電気事業法や計量法などの規制が技術の進歩に追い付いていない現状は早急に是正される必要がある。しかしここではあくまでビジネスベースで必要なことを考えたい。

 ある事業が100に育つには、ゼロから1、1から10、そして10から100という3つのステージがある。ベンチャー企業はゼロから1を生み出す存在だ。一方、大企業は10から100にスケールアップさせる体力がある。両者が共に、(1)ビジョンと時間軸の共有、(2)明確な役割分担、(3)人材の育成-の3点を意識して協業することで、この2つのステージをつなぐ1から10への拡張が可能になるケースは多いと期待している。

 しかしベンチャー企業は、新しいビジネスアイデアに関する事業構想の種は持っていたとしてもそれを事業戦略に落とし込んだり、見通しを具体化させるリソースが往々にして不足している。パートナー候補企業の選定や交渉をしようにもネットワークも十分ではない。一方で大手企業も自前主義を払拭し、ベンチャー企業の機動力を阻害しないようスピード感のある意思決定が求められるが、社内のセクショナリズムなどに阻まれそれができない場合も多い。シナジーを創出しやすいベンチャー企業と大手企業を結び付け、1から10のステージを走り切る「伴走者」が必要なのではないか。日本のエネルギー産業のエコシステムを豊かにするには、今あるピースを丹念につないでいくことが必要なのだと考えている。
 

ベンチャーのエコシステムを豊かに

 
 そうした問題意識に基づき、Utility 3.0の世界の創出に少しでも貢献したいと考えて2018年10月に『エネルギー産業の2050年 Utility 3.0へのゲームチェンジ』(日本経済新聞出版社刊)の共著者である伊藤剛氏と創業したのがU3イノベーションズ合同会社だ。筆者自身もまさに駆け出しのスタートアップであるが、エネルギー産業の中で多様なプレイヤーをつなぎ、サステナブルなビジネスを創出することで、日本のエネルギーベンチャーのエコシステムを豊かにしていきたいと考えている。

電気新聞2019年9月30日