工場やビル、店舗などの自家用電気工作物を点検する保安管理業務。設備トラブルが起きれば波及事故などの損害が大きく、保全の重要性が増している。しかし、守るべき電気設備は多様化し、常時稼働するなど点検内容は複雑化している。保安人材の不足も懸念され、将来の保安業務の在り方が問われる。デジタル技術は、保安業務にどんな変革を与えるのか。保安業界の現状と、デジタル技術開発に挑む関東電気保安協会の取り組み状況を追った。

 まず、保安管理業務が現在、どのような環境下にあるのか把握してみよう。平成初期の30年前と比べると、環境変化の大きさが見えてくる。

 30年前、保安検査員が点検していたのは照明、電動機(動力)、ヒーター(熱源)程度のシンプルなものだった。契約対象は工場などの産業用が7割、店舗やビルなどの業務用は3割。検査員が顧客への訪問・点検予定を決めることができた。

 顧客設備を止めて停電点検を行うのは、朝の営業前や昼休み、土曜日午後などの日中。顧客は設備を新規導入したばかりの時代。検査員は法規制に基づき設備の不良部分を指摘したり、トラブル時に駆け付けたりするのが日頃の業務だった。
 
 ◇連続運転が拡大
 
 現在はどうだろうか――。

 照明はLEDや有機ELが普及し、ライフスタイルに合った調整が可能になった。空調機器は建築物に標準装備された。サーバーやパソコン、携帯電話など高度な情報機器が普及しコンビニなどのチェーン店舗も増えた。

 文明の進歩によって電気の使用は多様化し便利になる一方で、設備の連続運転が拡大。設備容量も大型化した。緊急時を見据えた発電機や蓄電池などの付帯設備が増えた。再生可能エネルギー電源も普及拡大し続けている。

 これらを背景に、保安業務は複雑さを増している。単純に保安対象設備が増えているだけではない。いつ、どうやって点検を行うか、業務のやり方自体が難しくなっている。

 ビルの点検一つとっても、土日や深夜に停電点検を行うなど、時間指定により日程調整が困難になっている。サーバーや監視カメラなど、停電後の立ち上げに時間がかかる情報機器が増え、点検前後に時間を要することが増えた。電気使用が発展した半面、検査員の時間的拘束が強まっている。

 コンビニなどチェーン店舗の設備は、相手先企業の標準点検手順に基づき、月次点検計画を本部へ提出する必要がある。高圧一括受電マンションで地絡が起きた場合は、不良箇所を特定するために各戸へ調査に入らなくてはならない。かえって手間が増えているのが現状だ。
 
 ◇業務用契約7割
 
 現在、保安管理の契約対象は業務用が7割に逆転。全体の2%程度は太陽光発電など新たな委託対象設備が占める。自然災害の激甚化で太陽光パネルなどの損壊も相次ぐ。系統事故時は現地でパワーコンディショナーの操作を行う必要があり、これも負担感が強い。

 30年前には新しかった設備は老朽化し、更新時期を迎えている。検査員は顧客に対し、老朽設備の事故防止へ更新を働きかける必要がある。自然災害は広域・激甚化し、緊急時の要員待機はもちろん、現場確認へ人海戦術をとらねばならない。

 設備事故による社会的影響や損害を防止する観点から、かつての設備故障時点の修理・交換から予防保全による事前改修へと、顧客ニーズに基づき保安の考え方も変化している。

 保安対象設備が多様化し業務は煩雑になる一方だが、設備事故による社会的損害はなんとしても避けたい。事故防止や迅速復旧を図る業務品質の維持向上には人材確保と技術継承が必須だが、思うようにいかない事態が顕在化しつつある。

電気新聞2019年9月20日

※連載「保安の未来 デジタル化でどう変わる」は全4回です。続きは電気新聞のバックナンバーをご覧ください。