9月中旬に実施された試走には静岡県幹部ら7人が参加した
9月中旬に実施された試走には静岡県幹部ら7人が参加した

 東京電力パワーグリッド(PG)は、送電線巡視路をマウンテンバイク(MTB)のコース(トレイル)として貸し出す事業に乗り出す。富士山南麓の15万4千V田代幹線下で7キロメートルの整備を進めており、来春に本格開業する計画。静岡県の「自転車聖地化」構想に呼応し、地域の賛同・協力を得て取り組んでいる。収入を巡視路の整備に充てることで、本業のコストダウンにも役立つ。地域貢献に直結する収益事業であり、これからの共存共栄の在り方を示す好事例となりそうだ。

 事業を手掛けるのは静岡総支社(伏見保則総支社長)。静岡県は2020年東京五輪・パラリンピックの自転車競技が実施されることから、「自転車聖地化」構想を打ち出している。実現のためには魅力的なトレイル、MTBレンタル、駐車場などの環境整備が欠かせない。

 静岡総支社は、そうした地域のニーズや課題、国内外のMTB市場の将来性、経済波及効果に着目し、送電線巡視路のトレイル化を発案。特色ある地域振興策として期待を寄せる行政、関係する企業・団体と連携しながら事業化に取り組んでいる。送電線下の地権者も趣旨に賛同し、利用を快諾したという。

 このトレイルは、巡視路を活用するので大規模な工事が必要なく、管理もしやすい。社員と地域の関係者が一緒に汗を流して整備している。富士山そのものを走行できるのが大きな特長で、7キロメートルの長さは国内有数。20キロメートルまで延ばす構想もある。トレイル周辺には「富士サファリパーク」「富士山こどもの国」などの観光資源があり、相乗効果も期待される。

 9月中旬には、静岡県の土屋優行・特別補佐官、望月宏明・東部地域局長ら7人がトレイルを試走。土屋特別補佐官は「山あり谷ありで結構きつかったが、楽しかった。鉄塔が目印になるので道に迷わないのもいい。こういう取り組みをしてもらい、本当に感謝している」とコメントした。

 従来、電力会社の地域貢献といえば寄付やボランティアのイメージが強かったが、今回はあくまで収益事業として行う点が重要だ。地域貢献であると同時に、送電線巡視路の維持コスト削減といった本業でのメリットも見込まれる。さらに、地域が活性化すれば託送料収入を増やす方向に働く。

 伏見総支社長は「地域のためになる事業だからこそ喜ばれ、様々な方にパートナーとして協力を頂けるし、社員のモチベーションも高まる。当社を見る目が変わってきたのではないか」と話すなど、地域との新たな関係構築に向けた手応えを感じている。

電気新聞2019年10月24日