粕谷社長が手に力を入れると同時に、ロボットハンドが記者の手を握り返した
粕谷社長が手に力を入れると同時に、ロボットハンドが記者の手を握り返した

 「握力を感じますか?」

 メルティンMMI(東京都中央区)の粕谷昌宏社長が手に力を入れると同時に、ロボットハンドが記者の手を握り返した。粕谷社長の思うままに動くこのロボットハンド=写真、実は6月に大阪で開かれたG20(主要20カ国・地域)サミットで展示され、海外からも注目を集めた逸品だ。

 メルティンMMIは、“アバターロボット”と呼ばれる遠隔操作ロボットの開発に力を注ぐベンチャー企業。G20で展示したロボットハンドは、その一部分だ。同社が開発するアバターロボットは人間の生体信号を解析して、あらゆる複雑な動作も再現する。まさに人間の「アバター(分身)」といえる存在だ。

 「今から日本中の発電所を点検して来ます」――。そんな一言が絵空事ではなくなるかもしれないと、粕谷社長は指摘する。同社が開発するアバターロボットが実現すれば、人間が思う通りの動作を遠隔で再現できる。危険環境や極限環境での活躍が期待される。

 

直感的に操作、高性能な「手」

 

昨年3月に発表したアバターロボット「MELTANTーα」
昨年3月に発表したアバターロボット「MELTANTーα」

 アバターロボットはどのように、思い通りの動きをしているのか。可能とするのは、同社独自のアルゴリズム(算法)。人間の身体は脳が発した電気信号で動く。同社はその微小な電気を波形として捉え、独自のアルゴリズムで解析。その人が何をしたいか詳細に把握することで、特別な訓練なく直感的に操作できる。

 独自の強みは、ロボットハンドにもある。作業で圧倒的に重要な役割を果たすのは「手」。アバターロボットの実装は、高性能なロボットハンドの実現なくしてあり得ない。
 

速さに驚き。力強さも

 
 粕谷社長は「これまでのロボットハンドは2つのタイプに大別される」と指摘する。一つは器用な動きはできるが強い力を出せないタイプ。もう一つは、力は出るが繊細な動きは苦手とするタイプだ。

 同社は独自のワイヤ技術で「器用さ」と「力強さ」を両立させた。人間の身体、とりわけ筋肉と腱(けん)の構造を徹底的に分析することで、ロボットハンドを動かすための独自技術を確立。手の複雑な動作をワイヤ駆動で見事に再現した。

 G20(主要20カ国・地域)サミットでの展示では「動作の速さにも驚かれた」と粕谷社長は振り返る。通常のロボットは指示を受けてから動作するまでに時間がかかりやすい。粕谷社長が実演したロボットハンドは、ほぼ彼の操作と同時に動いていた。

 今のロボットハンドには圧力と質感のセンサーを搭載している。樹木を触れば木目の方向が分かるほどの性能があるという。将来的には温度センサーも搭載し、人間が感じられる幅を広げていく考えだ。

 そんなロボットハンドを携えたアバターロボットが目指すのは、危険な環境などへの進出。宇宙分野への適用に向けては既に動きだしている。宇宙航空研究開発機構(JAXA)は同社の技術に注目。国際宇宙ステーションの模型内で、宇宙飛行士の作業をロボットハンドで再現できるかといった取り組みを進めている。
 

開発は順調。放射線や高温の危険環境への対応も視野に

 
 「ならば、発電所への適用は」――。粕谷社長は記者の問いに対して「大いに可能性がある」と語った。発電所の点検やメンテナンスといった保守分野に加え、廃炉作業などでも活用できないかという話も出ていると明かす。

 まだ放射線や高温に耐えられる仕様ではないため、まずプロトタイプとなるロボットの完成を急ぐ。今のところアバターロボットの開発は順調で、2021年度の量産開始を目指している。23年度には危険な環境に対応できるモデルの実現を目指す。

 「導入したいというパートナー企業も増えている」と粕谷社長。パートナー企業に実証環境を提供してもらい、早期の社会実装に向けた意欲を示す。電力分野へ応用できる可能性を、大いに秘めるアバターロボット。メルティンMMIの今後の開発動向に注目が集まる。

電気新聞2019年8月28日

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