巡視用ヘリの分解点検を行う整備士ら。社内資格を得た確認整備士が点検内容を報告書にまとめる
巡視用ヘリの分解点検を行う整備士ら。社内資格を得た確認整備士が点検内容を報告書にまとめる

 送電線の巡視点検や測量、物資輸送と様々な場面で活躍するヘリコプター。人や資機材が入りにくい山間部で力を発揮する、送電線関連業務に欠かせない存在だが、日頃どんな業務を行っているのかはあまり知られていない。巡視・測量や工事の工程をにらみつつ、安全と効率に配慮しながら綿密な計画を立てて運航と整備を行っている。変化する業務量に対して、人材や機体を確保するには苦労も絶えない。現場の様子や業界の課題を追った。
 
 ◇現場支えて
 
 東京都江東区、新木場の海岸部にある東京ヘリポート。警察や消防、報道などのヘリが集まる場所に、東京電力パワーグリッド(PG)と中部電力が折半出資する新日本ヘリコプター(東京都江東区、林孝之社長)の東京基地がある。

 基地1階の整備室では、巡視用小型機「ベル206」の点検が行われていた。航空機は決められた使用時間を越えると分解点検を行う。現場復帰するまで機体は約2カ月休養。昨年入社した若手整備員を含む整備士らが機体を分け、部品を検査し、交換が必要なものを取り分ける。航空法の整備規程に基づき、工具や薬品類も厳密に保管している。

 実は電力向けの物輸や巡視・点検を行うヘリの場合「国家資格を取っただけでは整備士になれない」(茂木邦彦・整備部長)。社内規定に従い、実務ベースの教育を経た上でようやく一人前の整備士と認められる。

 運航室では、リアルタイムで運航状況や各地の天候を把握できるシステムを設置。刻々と変わる状況を監視し各機の年間飛行距離・時間を勘案して飛行スケジュールを綿密に調整していく。
 
 ◇電力に特化
 
 同社保有のヘリは14台。2電力エリアの送電線巡視や測量に使われる小型機と、資機材の物輸や延線に使われる中大型機に大別される。他のヘリ会社は防災や救護、報道、空撮、遊覧なども手掛けるが、新日本ヘリは電力業務に特化。安全最優先で「安定供給に向け電力会社の負託に応える」(本田厚・運航部長・機長)ことが使命だ。

 ヘリ巡視は送電線の保守に必要な業務。可能な限り接近して送電線を目視し、劣化や損傷がないかを確認。部材を取り換えるかどうか検討する。経年設備が徐々に増す中、最近は撮影も同時に行いデータを蓄積し、人工知能(AI)で事故兆候を発見する試みも進む。

 送電線建設用地周辺の樹木高を調べるレーザー測量も、ヘリ底部に測量機器を設置して行っている。樹木高は送電線や鉄塔を建設する際に安全な離隔を取って設計するために必要なデータだ。

 送電設備を建設する際の物輸は多岐にわたる。資機材搬入、鉄塔基礎用コンクリートや土砂の運搬、ロープ延線、除却設備の搬出。工事計画を立てる際、地上から工事用道路や索道、モノレールの敷設が難しい場合、ヘリが選択される。ヘリはいわば物輸の「最後のとりで」(荒井謙司・営業部物輸グループマネージャー)だ。
 
 ◇コストの壁
 
 しかしヘリは飛行コストがかかるのも事実。送電線建設の物輸方法は、現場ごとに諸条件を勘案しながら検討されることが日常。ヘリ物輸を選ぶにしても、注文して即応可能なサービスではない。

 旅客機のような一般的な飛行機とは異なる特殊技能や法的申請が必要で、保有する機体数や人員も限られる。建設・保守計画の変動により運航スケジュールは左右されやすい。

 人材不足が懸念される中、新日本ヘリでは「労働条件は注視したい」(林社長)として環境改善に努めている。熟練者の技術継承や現場経験の蓄積とともに、現有の人員で効率的に仕事を回す体制構築が必須だ。

 一方、業界全体では先行きの見通しを立てやすい発注計画や、年間を通じた業務量の平準化が理想だが、現実には難しい状況が続いている。

電気新聞2019年8月13日

※連載「送電用ヘリ・どんな仕事」は全4回です。続きは電気新聞のバックナンバーまたは電気新聞デジタル(電子版)でお読みください。