電力・エネルギー分野でのブロックチェーン技術の応用は、ピアツーピア(P2P)電力取引が代表的であり最も取り組まれている事例だが、その応用はP2P取引にとどまらない。再生可能エネルギーを中心とする電源情報のトラッキング・証書化、資金調達プラットフォーム、電気自動車(EV)の充電管理、バッテリーの充放電やデマンドレスポンス(DR)の履歴管理などがP2P以外の主な事例である。実証段階ではあるが、ブロックチェーン技術を系統運用に活用する事例もあり、今回はそれらの事例を紹介する。
 
表_ブロックチェーン_4c

 電力P2P取引は通貨のP2P取引と対比しやすかったため比較的分かりやすいと考えられるが、ブロックチェーン技術の特徴として、中央管理者を必要とせずP2Pで安全に取引を行えることに加え、取引の正当性を保証したり、存在を証明したりする機能がある。系統運用の事例では、これらの機能の最大限の活用が試されている。
 

充放電履歴を保存して利用するケースも

 
 家庭用蓄電池を展開し、蓄電池を有するメンバー同士で電力融通するサービスを展開しているドイツのSonnen社は、送配電網に展開した蓄電池を制御することで、送電線の混雑を解消し、風力発電の出力抑制を回避することを目指している。この運用の中で、同社はブロックチェーン技術を風力発電機と蓄電池間の電気のやり取りを記録するために活用している。また、ブロックチェーンによる分散エネルギー情報基盤アライアンス(DELIA)では、福岡市のマンションで「ローカルVPP」の実証を行うが、ここでも蓄電池の充放電履歴をブロックチェーンに記録保存している。

 P2P取引では取引という側面が強調されたが、前述の系統運用の事例では取引の側面もあるものの、記録保存という側面が強調されている。計測が正しいという前提で、データを安全に記録保存し、後に精算や分析など重要な用途に使うためにブロックチェーン技術を活用している。他にはエナリスが福島県でデマンドレスポンスの実証実験を行った例がある。この事例も取引を伴わず、電力の使用履歴を記録保存するというものであった。
 

取引によりフレキシビリティーを確保

 
 また、系統運用に関わる事例でも取引の側面が強いものもある。英国エレクトロンは、シーメンス・送電事業者のナショナルグリッドの支援の下、EDFエナジーら9社とコンソーシアムを組成し、フレキシビリティー(変動再生可能エネルギーの普及に伴う需給調整手法・手段)の取引プラットフォームを開発している。これは、従来は二者間で行っていた取引を三者間で行うことにより、調整の柔軟性を増し、フレキシビリティー取引の効率向上を狙うものである。

図_京セラ_4c

 京セラとLO3エナジーは今年2月、京セラ横浜中山事業所においてVPP(バーチャルパワープラント)高度化技術実証の実施を発表した。これは経済産業省のVPP構築事業を中心として開発が進んでいるVPPのシステムを、ブロックチェーン技術の活用により、特に低圧需要家リソースによる調整力を管理する機能を実現させ、送配電事業者の託送システム向けのプラットフォームサービスとして、アグリゲーションコーディネーターとの連携による提供を目指している。LO3エナジーは、実証において、売りと買いをマッチングさせるマーケットプレースやモバイルアプリ、ゲートウェイ機器から成るプラットフォームを提供している。

 前述の事例は実証段階のものがほとんどであり、ブロックチェーン技術が系統運用の中でどのようにメリットを発揮するかを見るのはこれからである。ブロックチェーン技術はデータの安全な記録保存手段であることから、こうした実証に取り組む企業は、系統運用・管理の効率化を目的に導入を進めることを期待している。

電気新聞2019年6月17日