SPT のマイクロ波送電機と1.2ワットを取り出すことができる受電機の試作機
SPT のマイクロ波送電機と1.2ワットを取り出すことができる受電機の試作機

 スマートフォンへの搭載が進み身近なものとなった無線給電。IoT(モノのインターネット)や電気自動車(EV)との相性が良いことから、一層の適用範囲拡大へ向けた技術開発や指針の議論が本格化。早ければ来年にも現在より高出力の技術や伝送距離が長い技術が実用化される見込みだ。電力業界もこうした流れに注目しており、ベンチャーへの出資や、共同研究の動きが加速している。

 無線給電の考え方自体は19世紀から存在しており、新しいものではない。実用化のハードルとなるのが効率、安全性、そして電波利用との干渉だ。

 そのため、現在実用化されている無線給電はそれら課題の少ない小電力・短距離の電磁誘導方式のものとなっている。例えばスマホなど向けのQi規格は15ワット以下を規定。送電側と受電側に大きな隙間があれば給電されない。

 今後期待される一層の出力増や「どこでも充電」へ向けては、エネルギーを電波に変換し送受信する方式が有望視される。

 そこで総務省は電波行政の一環として今年2月に「空間伝送型ワイヤレス電力伝送システム作業班」を立ち上げた。まず2020年の実用化を目標とした「ステップ1」で、マイクロ波を利用した最大空中線電力1、15、32ワットの3仕様を検討。指針策定へ議論を進める。安全確保はセンシング技術の活用、干渉防止は利用場所を室内に限るなどの対策が見込まれる。

 京都大学発ベンチャー、スペース・パワー・テクノロジーズ(SPT、京都市、古川実社長)もそうした議論に加わりつつ、技術開発に挑む。

 同社がまずターゲットとするのが日単位での充電・電池交換を必要とする機器群だ。太陽電池など環境発電デバイスで賄うには消費電力が大きく、電池では交換が煩雑な領域を狙う。

 その一つが「デジタルピッキングシステム」。製造業や物流業では多様な部品・商品を正確な個数選び出すために、基幹システムと棚に設置された表示器が連動し、作業者を支援するシステムが導入されているが、配線が煩雑だ。また、高速回転する切削機械の至近に設置するセンサーへの無線給電も目指す。いずれも配線・電池交換の手間をなくすことができれば、高度なものづくりにつながる。
 
関電、ベンチャーに出資。東電はドローン受電の研究に取り組む
 
 同社は、関西電力がK4 Ventures(K4V、大阪市、稲田浩二社長)を通じ出資している。発電所や大口顧客の工場には、高温、高圧、高電圧など作業員が入りづらい環境が少なくない。無線給電が作業者の安心・安全につながる点も、出資を決めたポイントになったようだ。

 さらに将来へ向けた動きも加速する。内閣府は戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)の一環として遠距離・高効率・大電力で安全な無線給電の研究開発を18年度から開始。そのうち基盤技術開発の項目は名古屋大学教授でノーベル賞受賞者の天野浩氏が責任者となるなど「オールジャパン」の体制を構築する。

 飛行中のドローンへの無線給電技術開発を目指す項目は、東京電力ホールディングス(HD)が責任者。飛行時間の制限を取り払えばドローンの可能性を大きく広げる。同社では受電部の小型・軽量・高耐電力化を京大や他の参画企業と進めており、鉄道など他のインフラ企業と協調しつつ早期の社会実装を目指す。

 ドローンは表示器やセンサーと比べ消費電力が格段に大きく、技術的ハードルも高い。SPTの古川社長は総務省が「ステップ2」の議論に入る際に長距離の伝送効率の高いミリ波について仕様提案し、実用化を後押ししたい考え。高出力だと間に物体が挟まったときのリスクも増すが、安全性確保は画像センシング技術などで乗り越えられると見通す。

 このほか新電力も無線給電へ関心を示す。みんな電力と京大は走行中のEVへの給電などを視野に、セキュリティーを確保した仕組みの構築を目指す「電力5G」の共同研究を今年3月に開始している。

電気新聞2019年8月16日