大規模集中型電源の投資が難しくなる一方で、変動型電源である再生可能エネルギー発電の配電系統への連系増加に伴い、電力ネットワークにおける系統制約が顕在化しつつある。今回は、米国における、小規模供給力の配電系統における活用に関する検討状況を紹介する。
カリフォルニアISOやMITで行われている議論
米国カリフォルニア州の独立系統運用者(以下、カリフォルニアISO)では、分散型供給力(DER)の活用に関して、送電系統側と配電系統側でどのように住み分けるかという検討を行っている。カリフォルニアISOは69kV以上の送電系統の管理・運用を行っているが、DERの管理・活用を拡大する際に、ISOが配電系統の情報を取り込んだ上で活用を進めるミニマルDSO(配電系統運用者)モデルと、配電系統運用者が自身の地域に接続するDERをアグリゲートしてISOと取引を行うトータルDSOモデルのいずれを選択するか、が議論されている。
ミニマルDSOモデルの場合、ISOはリアルタイムで配電系統の状態に関する情報を把握し、DSOの運用と協調しつつ、全てのDERを送配電系統運用に統合することになる。現在、カリフォルニアISOでも地点別限界価格方式(LMP)で卸電力価格の価格形成を行っているが、このモデルを採用するISOは配電要素を含んだLMPの計算を行うことになる。そのため、ISOのシステムは送電系統に加え配電系統の情報を含んだものに改修する必要があると共に、配電系統のLMPの計算も、地点数が多いため、計算量が膨大になる可能性が高い。
一方で、トータルDSOモデルは、DSOが配電系統に接続するDERの管理・運用を行い、地域の需給計画の策定を管理するスケジューリング・コーディネーターとして、ISOのエネルギー市場およびアンシラリー・サービス市場へDERをアグリゲートして取引に参加する。この場合、DSOが接続する地点でのLMPで取引が行われるため、現行のISOの価格形成方式に変更はない。しかし、配電系統内の課題解決のため、各配電系統内の地域市場を構築する必要があり、DSOは現行のTSOに近い役割を担うことになる。
こうした議論は、米マサチューセッツ工科大学(MIT)が2016年に公表した「Utility of the future」という報告書にもみられる。報告書では配電系統でのLMPの実現可能性について検討したものの、現在の計算機では近似解での計算が現実的であるという指摘もあり、システムの複雑化に対する懸念があると指摘している。
また、カリフォルニアISOは、再生可能エネルギー発電導入拡大に対し、ゾーニングを通じた計画的な導入で送電系統増強費用を抑制してきたという経験がある。配電系統へのDERの接続増加という将来展望に対し、配電系統内の課題解決にDSO自身が取り組むことで系統増強費用を含めた費用最小化へのインセンティブが強まるという見方が背景にある。これは地域がどのようにDERを普及させていくかという選択につながる問題であり、非常に興味深い議論である。
すべての取引を一元管理することは難しい
電力供給体制は、将来的には送電系統に連系している大規模集中型発電中心の供給体制から、配電系統に連系する小規模分散型供給力(発電機や需要側資源)の割合が高まると考えられている。
本連載では第1回で欧州における小規模分散型供給力の取引プラットフォームの例を、第2回では配電系統における変電所混雑管理に小規模分散型供給力を活用したプラットフォームの例を紹介。第3回では小規模分散型供給力の導入拡大に伴う系統の慣性力低下に対して一次調整力の機能を多様化することで急激な周波数変動を抑制しようと取り組んでいる米国テキサス州と英国ナショナルグリッドの例を紹介した。今回は小規模分散型供給力を活用しようとした場合に生じるシステム構築の複雑化に対してトータルのシステムで対処するのか、個別配電系統のシステムで対応するのか、というカリフォルニアISOでの検討例を紹介した。
変動型再生可能エネルギー発電の導入拡大に伴い、エネルギー取引(kWh取引)の短時間化が欧米で進められており、エネルギー取引と調整力取引(⊿kW取引)の取り合いが生じかねない状況になりつつある。そうした面を考慮すると、フレキシビリティーのある小規模分散型供給力の取引を行うプラットフォームの構築は複雑にならざるを得ない。
またそうしたフレキシビリティーのある小規模分散型供給力が万単位で市場に参加することになった場合、全ての取引を一元的に管理することの難しさもある。設備の規模や解消する系統制約の絞り込みを行うことで、複雑性の程度を低減させることや、テキサス州やイギリスの事例のように、自動応答の要素を組み込むことも重要ではないかと考えられる。
電気新聞2019年6月3日