UHV建設に使われたIHI製「U―65」。保有数が少なく、確保も困難を極める
UHV建設に使われたIHI製「U―65」。保有数が少なく、確保も困難を極める

 送電線工事に使われるクレーンなどの建設機械について、需要逼迫の懸念が持ち上がっている。地域間連系線の建設など今後の工事需要増が想定される一方で、一部製造メーカーが撤退するなど供給力が減退。新規購入費用も高騰の恐れがある。工事の輻輳(ふくそう)があった場合、機械的施工力として建機をどう確保していくかが電力会社や工事会社にとって喫緊の課題だ。見えてきた課題と、既存の建機を長く使うためのメンテナンスの現場を追った。
 

◇ ◇ ◇

 
 送電線工事、特に鉄塔基礎・組み立てに使う主な建機は、傾斜地でも吊り運びができるジブクレーンや高所で部材を吊り上げるクライミングクレーンだ。山間部に鉄塔を建てることが多い日本の送電線工事現場では、運び込みやすいジブクレーンの役割は大きい。支柱を追加しながら数十~百メートル級の鉄塔を組み上げるクライミングクレーンも貴重だ。いずれも送電線工事の現場に適した特殊重機の位置付けだ。

 だが業界から、これらのクレーンが送電線工事の現場で不足するかもしれない、という懸念の声が強まっている。

 数年後の大型工事計画をみてみよう。2022年頃に着工が予定されるのは、東北―東京間連系線の北幹線(仮称)と相馬双葉幹線、東京―中部間連系線の佐久間東幹線・西幹線。亘長80~100キロメートル超の工区となる工事案件もあり、多くの人的・機械的施工力を必要とする。

 ほかにも大規模電源と連系するため増強する東北日本海側の基幹送電線、リニア中央新幹線向けの電源供給線など、国家プロジェクトでありかつ広域におよぶ工事が同時期に重なる。その後も、一般送配電事業者が保有する既存送電線の高経年化設備について各社が更新を計画。今後10年間は一定量の工事が見込まれる。

 こうした工事需要に建機を一定量確保していく必要がある。しかし、工事会社が保有する建機では増加する工事量を賄いきれない恐れがある。
 
 ◇ニッチの需要
 
 クレーンの耐用年数はおよそ35年とされ、工事会社は工事量に応じて新規購入を迫られる。しかし、平成初期までの高度成長期にピークを迎えた送電線工事の建設需要はバブル崩壊後に急減。これに応じてメーカーは送電鉄塔用クレーンの製造量を縮小し、別分野の建機製造にシフト。工事会社も大型建機の維持管理は負担が大きく、売却や廃棄を余儀なくされ、保有数も少なくなった。

 送電線工事用の建機は特別仕様。同市場は建設の需要規模からすればかなりニッチで、多くの注文は出ない。今から発注を掛けても、継続的な発注が見込めなければ生産に応じられないか、応じても高度成長期の価格の倍になる公算が高い。
 
 ◇メーカー撤退
 
 送電鉄塔用クレーンの製造から撤退したメーカーが日立建機。同社のジブクレーンは部材吊り上げとブームの起伏操作を同一のワイヤ機構で行えるためコンパクトなのが特徴だ。山岳地でも運びやすく、使い勝手の良さが工事会社に好評だ。今もかなりの割合で日立建機製を保有する工事会社は多い。

 しかし、工事会社が今後買い替える場合、IHIやコシハラなどの別メーカー製品を購入する必要がある。現行メーカーが製造に応じても、工期に必要数を用意できるとは限らない。その間にも廃棄対象となるクレーン数は増えていく。特にクライミングクレーンは加速度的な減少が不安視される。超高圧系の鉄塔建て替え時に必要な超大型クライミングクレーンは現状保管されておらず、数は極めて少ない。

 高価な建機を購入した工事会社に対して機械損料を計算する電力会社にとっても、今後の負担増は悩ましい課題だ。できるだけ負担を軽く、かつ施工力の不足なく円滑に工事計画をこなすためには、今ある建機を延命化して上手に使い回す必要がある。

 国家プロジェクトが相次ぐ事業環境の中、施工力不足はこの先、電力・工事個社では対応しきれない恐れもある。重要な社会インフラである送電線だが、工事総量が小さく社会的認知度が上がらないのが難点。業界を挙げ課題解決に取り組む必要がありそうだ。

電気新聞2019年7月1日

※連載「クレーンを確保せよ 送電用建機の課題」は7月1~3日に上・中・下の全3回で掲載しました。続きは電気新聞のバックナンバーをご覧ください。