手前の製造設備で積載したコンクリートを打設位置まで自動で運搬する
手前の製造設備で積載したコンクリートを打設位置まで自動で運搬する

 人の手を介さずにダムのコンクリート打設を自動化する――。そんな時代を先取りする取り組みが清水建設の現場で進む。場所は7月末の打設完了に向けて工事が進む簗川ダム(岩手県盛岡市)。堤体などを築く打設作業に自動化システムを導入し、人の操作に比べて打設にかかる時間を約10%短縮。その他の合理化策と合わせ、打設工期を4カ月縮めた。熟練の技術を要する打設作業の自動化は、土木工事の生産性を高める手段として、注目を集めそうだ。

 「オペレーターは座っていますが、操作はしません」。システムを説明する現場担当者は胸を張る。従来は軌索式ケーブルクレーンを操作してコンクリートを積んだ鋼製容器を打設位置まで運んできた。細かな位置調整など熟練の技がモノを言う世界だけに、一朝一夕で身に付くわけではない。現場では5人のオペレーターが作業に当たるが、20代は1人だけ。50代でも若い部類に入るという。

 自動化システムはそんな打設の在り方を大きく変える。施工管理者が打設位置の3次元座標などのデータを入力すると、コンクリートの積載から運搬、投下までの工程を全自動で連続的に進めていく。精度の誤差はプラスマイナス50センチほど。最盛期には打設を一日に200回繰り返した。打設箇所に応じて異なるコンクリートの配合率も調整し、各材料の計量や練り混ぜもシステム化する。

 「オペレーターの人材不足を補う意味でも自動化の意義は大きい」。現場からはそんな声が聞かれた。若手の入職率低下によってオペレーターの育成は進まない。仮に将来を見越して人材を投入しても、国内での新規ダム建設需要の増加は見通しにくい。自動化は業界のジレンマに対する一つの解でもある。

 清水建設では今後、他のダム建設現場にも適用を拡大する方針だ。自動化システムを適用した簗川ダムは、県営ダム最大の貯水量になる見込み。

電気新聞2019年6月25日