海洋エネルギーを利用する研究は、波の上下動でタービンを回す波力発電を中心に1980年頃から日本で始まった。海洋エネの潜在力が豊富な欧州の企業や研究機関と競いながらも日本勢は成果を出していたが、2000年代前半に研究開発を縮小。当時から海洋エネの研究に取り組んでいた関係者は「あの頃は原子力発電に国の研究費用が注がれた時代。海洋エネは下火になってしまった」と振り返る。

 ただ再生可能エネルギーや分散型電源が脚光を浴び出した11年度に、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が本腰を入れ始めた。「海洋エネルギー技術研究開発プロジェクト」と題し、新たな発電システムの研究と海洋発電装置の部品や要素技術の研究に乗り出した。本格的に実用化への道を歩み出したのだ。

海流発電の実証試験で30kWの出力を得られた
17年に行われた世界初の海流発電実証試験

 一度は下火になった海洋エネの研究は「欧州に比べて10年は遅れている」(関係者)との指摘もあるが、日本の海洋環境に応じた研究は着々と進展。黒潮などの流れを利用する海流発電は17年に世界で初めて実海域で100キロワットの実証試験が行われたからだ。日本の近海を流れる世界有数の流速を持つ黒潮によって発電装置が稼働。全長約18メートルの装置は海中で体勢を維持しながら見事にタービンを回した。

 開発に携わるIHIの長屋茂樹・海洋技術グループ部長は一つの節目をクリアして安堵した表情を見せるものの、既に次の段階として高出力化を見据えている。NEDOは日本の国内で、多ければ400万キロワット程度の海流発電が可能だと試算している。黒潮は一定の流速を持つため安定した発電が見込め、「他の再生可能エネと一線を画すベース電源として運用することも可能だ」(長屋氏)と考える関係者は少なくない。

 波力や潮流などを利用する発電方式も実証を進める中で、数十キロワットの発電実績が出てきた。小規模出力で運用するうちは離島の分散型電源として活用し、それから出力を高めて送電系統へ接続するといった青写真を関係者は描いている。IHIの海流発電も20年に実用化し、30年に大規模化する将来像を持つ。

 技術的な将来見通しは立ってきたものの、大規模な実験に取り組むとなると大きな課題が立ちはだかる。実証場所をなかなか確保できないのだ。

 実証に取り組むためには地元自治体との協議が不可欠だが、企業単体で申し込んでも「なかなか協議が進まない。国の支援がほしい」と海洋エネ研究の関係者はため息交じりに話す。さらに発電設備を作るメーカーが撤退するといった課題も出てきた。

 発電コストの議論も避けて通れない。海洋エネルギー資源利用推進機構の高木健会長(東京大学大学院教授)は海洋エネ発電が大規模電源になった段階で、初めて「他の再生可能エネと比較できるようになり低コスト化競争の段階に入る」と指摘。海洋エネ発電の出力を大規模化して主力電源の仲間入りを果たすためにも、国や企業、研究者の本気度が試される。
 
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 日本はエネルギー資源が乏しいと言われる。確かに化石資源はほとんど採れないが、無尽蔵に近いほど膨大なエネルギー資源に囲まれている。潮の流れや波の力、海洋の温度差を活用する「海洋エネルギー」だ。現在は4種類の発電方式を開発中。小規模な実証を進め、今後は大規模化を視野に入れた研究に移る。ただ今年中に実海域で長期実証を行う海流発電が順調な一方、他の方式は実証場所の問題で研究が滞る可能性も出てきた。現状の研究状況で見えてきた課題や将来像を探る。

電気新聞2019年5月14日

連載「海洋エネルギー・研究開発の行方」は全7回です。第2回以降は本紙または電子版でお読みください。