ゴーグルとグローブを装着することで現実に近い災害の体験を可能とした
ゴーグルとグローブを装着することで現実に近い災害の体験を可能とした

 北陸電力は、VR(仮想現実)を使った配電工事の危険体感システムを開発した。ゴーグル型表示器や触覚再現グローブを装着することで、リアルな災害現場(シナリオ)を体感。視覚、聴覚、触覚に加え感電などによる痛覚も再現するなど、徹底して臨場感を求めた。ルールや手順を無視した『やってはいけない作業』とその『結果』を忠実に再現することで、危険感受性を効果的に高めるのが狙いだ。2019年度から新入社員教育、研修会などに取り入れる。

 同社配電部はこれまで、災害疑似体験などの研修を実施してきたが、危険性を十分に認識できる内容に至っていなかったという。そこで17年11月に発生した短絡アーク災害を契機にシステム開発に着手。安全衛生用品メーカーのミドリ安全と共同で約1年かけ「VR危険体感システム」を開発した。

 システムは、視覚再現用ゴーグル型表示器、姿勢検知センサー、指認識センサーと触覚再現グローブなどミドリ安全の機器を使用した。北陸電力は、発生頻度が高い電灯計器の送電作業での短絡アーク事故を想定した「シナリオ」をソフトとして開発。触覚再現グローブとの連動を図った。シナリオは「徹底的にリアルさを追求した」(鎧塚明徳・送配電事業本部送配電品質管理部副課長)という。

 まずゴーグルとグローブを装着した被験者は、360度の仮想空間に没入する。そしてゴム手袋をせずにドライバーと電線を両手に持ち、電灯計器内の線間に接触。ゴーグルからは爆発音や閃光(せんこう)が、グローブには振動と微弱の電流が伝わり痛覚も体感できる仕組みだ。手にはやけどの跡も見えるなどさらに臨場感を高めた。また、作業内容の説明・注意事項をゴーグルの画面に表示し、ナレーションを加えるなど案内機能も持たせた。

 「痛みをも体感することで、二度と起こしたくない気持ちにさせる」(鎧塚氏)のが狙い。19年度は、研修会など現場に導入し検証を進める。墜落の感覚を体感できる落下装置の導入も予定する。また、高所作業車からの転落事故、フルハーネス型安全帯装着での落下事故など新たなシナリオの検討も進める。

 北陸電力では、20年4月に送配電部門を分社し「北陸電力送配電」が誕生する。VR危険体感システムは今後、労働災害撲滅のツールとして、新会社の送電・変電部門での活用も視野に開発を進めていく方針だ。

電気新聞2019年5月14日