技術で紡ぐ4つの技術革新

概要説明

 AI(人工知能)、データセンターの拡大や社会の電化に伴う電力需要拡大への対応が、世界的な課題になっている。経年化設備の更新も先進各国の悩みだ。日立製作所グループはこれらに応え、電力インフラのGX(グリーントランスフォーメーション)、DX(デジタルトランスフォーメーション)を加速する多様な技術を展開している。「生かす」「送る」「補う」「守る」というキーワードで、安定供給とカーボンニュートラルの両立に挑む日立グループのソリューションを紹介する。

「生かす」
HMAX ENERGY

 日立グループは鉄道、電力システム、ビル・工場など、世界中の社会インフラに設備・機器を納め、運用・保守を担い、設備と運用の高度化に取り組んできた。それら重要アセットから得た膨大なデータと、進化するAIを組み合わせた次世代ソリューション群を「HMAX」と名付け、あらゆる分野で順次展開を始めた。電力分野でも経年化した重要設備を守り、生かし続ける新たな選択肢として提案していく考えだ。

 「電力網は歴史上類を見ない変革期に直面している」。日立エナジーサービスビジネスユニット担当役員のウルフ・ミュラー氏は現状をそう表現する。

 再生可能エネルギー拡大、データセンターに代表される巨大負荷の出現、設備高経年化。これらすべては電力網が直面する課題だ。対応には巨額の設備投資が必要だが、一方でエネルギーに対し安定供給を確保した上での「Affordability(手頃な価格)」を求める声も世界的に高まる。
 設備投資を最適化しつつ、安定供給を両立する手だてはないか――。この課題に応えるのが「HMAX Energy」だ。

変電所へのHMAX適用(イメージ)

 その一例が、世界中に張り巡らせたHVDC(高圧直流送電)、変電所、変圧器などの設備群から取得したデータと運用・保守で培ったナレッジをAIで解析すること。リスクの予兆を捉え、事前に手を打つことで設備の健全性を保ち、寿命を延ばす。イタリアの再生可能エネルギー企業が運営する大規模風力の開閉装置監視や、ドイツとスウェーデンを結ぶHVDCに適用し、稼働率向上などに貢献している。

 発電設備でも「HMAX Energy」の適用に向けた検討が進む。日立製作所原子力ビジネスユニット・チーフルマーダビジネスオフィサーの大坂雅昭氏は「時間基準に基づく従来型の設備保全をコンディションベースに切り替え、最適化を図る上で、HMAXは極めて有効な手だてになる」と話す。

 足元では、データセキュリティーの確保に万全を期しつつ、多くの時間と手間がかかっていた規制対応の書類作成業務を生成AIで効率化する試みが成果を挙げつつある。

 日立先進プラント性能監視システム(HAPPS)で得たデータと原子力のナレッジ、AIを融合して設備の点検・保守を高度化し、稼働率を高める試みも進む。将来的に、デジタルツインに設備情報を統合し、仮想空間の中で保全計画などの検討を進める「データドリブン発電所」の実現も見据え、HMAXの適用拡大を目指す。

データドリブン発電所のイメージ

「送る」
HDVCとSTATCOM

日立エナジーが参画し米ニューヨーク市近郊に開発したHVDC変換所

米ニューヨーク市近郊に開発したHVDC変換所

 洋上風力に代表される大規模な再生可能エネルギー電源と需要地をつなぎ、効率的に電力を送る基幹技術として、世界各国でHVDC連系線の開発が活況を呈している。長距離・低損失という強みに加えて、弱い系統でも電圧や周波数を維持するグリッドフォーミング(GFM)運転を行うことで、交流系統を支える役割も浸透してきた。

 HVDCの世界市場は今、年1千万キロワット弱の需要が生まれる超好況期に突入している。日立エナジーはこの領域で世界トップの導入実績を誇る。技術開発の歴史も長く、現在展開する自励式変換技術「HVDC Light」は第5世代に当たる。電力を送る本質的な機能に加え、近年は太陽光、風力の弱点を克服し、系統を守る役割も担うようになった。

 火力・原子力など回転体(タービン)を持つ同期機が減少し、変動性再エネが増えると系統の慣性が低下し、周波数安定性を損なうとされる。HVDCは高速周波数制御や疑似慣性などで系統の慣性不足を補う。変換器内部に電源を持っており、同期機と同じように、連系する交流系統の電圧安定化にも貢献する。

 電力を送るだけでなく、系統と協調し、支える存在に進化したのが今のHVDCだ。同期機と同じような振る舞いをするGFMは2010年頃から海外で実運用を進めてきた。

HVDCは系統と協調し支える存在へと進化を遂げた

HVDCは系統と協調し支える存在へと進化を遂げた

 系統安定化に向けて進化したのはHVDCだけではない。静止型無効電力補償装置(STATCOM)も同社が誇る技術の一つだ。

 従来のSTATCOMは無効電力を制御することで交流系統の電圧変動を抑えていた。ただ、短絡容量が小さい弱い系統の場合、電流を注入すると系統の電圧に影響を及ぼし、動作が不安定になる点が課題だった。

 同社が提案するGFM型STATCOMは、自励式HVDCと同様に、電圧源として動くことで障害時に系統を支える。ドイツの国営送電事業者から受注したEnhanced―STATCOMは瞬間的に大容量の有効電力を放出・吸収するキャパシタと組み合わせ、周波数維持に欠かせない慣性力を供給する機能も備える。

 系統への慣性供給は、同期電源や同期調相機が注目を集めがちだが、再エネ導入で先行する欧州ではGFM型が有力な選択肢として拡大しつつある。日立エナジージャパンの西岡淳氏は「GFMとキャパシタを組み合わせることで、瞬間的に大きな慣性エネルギーを供給し、系統安定化に貢献できる」と語る。

「補う」
需給調整市場システムと蓄電池

 電力は絶え間なく変化する需要に対応し、供給し続けなければならない特殊なインフラだ。出力が安定しない再生可能エネルギーが増えるほど、変動を補う蓄電池などの調整力が存在感を増す。日立製作所は、この調整力を全国の一般送配電事業者が取引する需給調整市場システムの開発・更新を通じて再エネ拡大に貢献している。

 同システムは、国内電力10社を代表して東京電力パワーグリッドと中部電力(現在は中部電力パワーグリッドが引き継ぎ)が開発主体となり、日立が2019年に受注した。海外で実績を持つABBパワーグリッド事業部門(現日立エナジー)と連携して開発を進め、円滑な導入につなげた。

 需給調整市場は21年4月の創設以来、段階的に商品を拡充してきた。26年度には週間調達だった商品を全て前日取引化する予定。日立はユーザーの要望を踏まえたきめ細やかな対応を手がける中で、市場・制度への理解も深めてきた。

 電力システム改革を支える電力広域的運営推進機関(広域機関)、容量市場などのシステム開発で得た経験も、開発力を下支えする。社会ビジネスユニットの高木順一朗氏は「社内のIT、OT(制御・運用技術)各部門が連携し、人材交流なども進めたことで様々な知見が蓄積された」と手応えを語る。

日立グループの総合力が松山蓄電所のEPCに生きた

日立グループの総合力が松山蓄電所のEPCに生きた

 蓄電池システムでは、グループの総合力を生かした事業戦略を描く。電池を外部調達し、日立エナジー、日立パワーと共同でEPC(設計、調達、建設)を進めた松山蓄電所(松山市、定格出力1万2千㌔㍗)はその好例といえる。足元では電力トレーディング支援システム(仮称)の開発も進行中。開発から運用まで伴走しながらユーザーを支援し、付加価値の高いシステム提案につなげる。

「守る」
EconiQ高電圧機器

 事故時などの異常電流を瞬時に切り離すことで事故の波及を防止するとともに電力設備を守るのが、遮断器やガス絶縁開閉装置(GIS)だ。これらの機器は一般的に六フッ化硫黄(SF6)ガスの優れた絶縁・消弧性能を利用することで設備の小型化を図ってきた歴史がある。

 一方でSF6は温室効果が二酸化炭素(CO2)の約2万4千倍と極めて高い。経済産業省の統計によると大気濃度は上昇トレンドにあり、国内SF6排出量の約半分は電力機器から排出されている状況にある。

中部電力PGが導入するSF6ガスフリーの日立エナジー製50万VGIS

中部電力PGが導入するSF6ガスフリーの日立エナジー製50万VGIS

 日立エナジーはSF6代替ガスとしてフルオロニトリル(C4FN)などのフッ素系混合ガスを採用したガス絶縁開閉機器などを開発。2021年から「EconiQ(エコニック)」のブランドで展開している。日本でも中部電力パワーグリッド(PG)がエコニックの55万Vガス絶縁開閉装置と30万V遮断器を導入する計画がある。日立エナジーは既存のSF6機器との比較で温室効果ガス排出量を約99%低減できるとしている。

 日立エナジーの高電圧開閉機器ビジネスユニットグローバルポートフォリオマネジャーのナビッド・マハディザデ氏は「エコニックは高電圧領域で高い信頼性と拡張性を備えつつ、SF6を使用せず環境負荷を最小限に抑えられるポートフォリオだ」と胸を張る。脱SF6に向けては自然由来ガスと真空遮断器技術による開閉機器を使う動きもあるが、現状では14万5千Vを超える高電圧領域の製品化が進んでいない。電力の安全・安定供給と地球環境を守る手段として、エコニックは確かな存在感を放つ。

2026年3月30日 電気新聞