系統の将来図を紹介するディジコー社のマティス社長
系統の将来図を紹介するディジコー社のマティス社長

 設備から得るデータの分析や活用といったデジタル技術の導入が、欧州エネルギー関連企業の経営の幅を広げている。顧客のニーズに合わせたデータの成形で利益を上げるほか、業界の垣根を越えた事業も展開。有望なデータを扱う企業には熱い視線が注がれており、様々なモノと情報がつながる次世代のプラットフォームを構築する戦略も透けて見える。デジタル化で業界がどう変貌するのか。英独を訪問し、エネルギー企業の戦略から将来像を探った。
 

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 太陽電池や蓄電池、電気自動車(EV)などに対するニーズを家庭ごとに予測することは可能だろうか――。ニーズを予測できれば、メーカーにとっては営業戦略の立案に、系統事業者にとっては電力需要などの予測に役立つ。ただ、予測を実現するには家族構成や所得レベルのほか、屋根にある太陽光発電のポテンシャルなど、あらゆる情報が必要となる。こうした情報を集めてニーズを把握し、配電系統にぶらさがる需要の将来像までをシミュレーションする企業がドイツにある。
 
 ◇最適な設備構築
 
 独配電系統事業者(DSO)のウエストネッツが出資するディジコーは、収集した電力量計のデータや世帯数などの国勢調査の情報を基に、ニーズの把握に取り組む。

 配電系統ごとに将来の需要を示すと、設備構築の想定にも役立つ。近年は、独自動車メーカーが相次いでEVを投入する方針を示しているが、EVが普及すれば負荷が高い急速充電器の設置が進む。相当数の設置になれば、変電所の設備増強は避けられない。

 会社設立から約2年が経過するディジコーは、データ提供のビジネスモデルによる売上高が年100万ユーロ(1億2千万円)という。ピーター・マティス社長は、急速充電器について「今は1日1基の設置ペースだが、将来は1日1000基もありえる」と需要の急拡大を示唆。系統のシミュレーションは「充電器を欲しい人全員が導入できるように設備計画を立てる目的もある」と話す。

 ただ、需要想定だけで設備計画を立案すると過剰投資になりかねない。マティス氏は計画立案の2つ目の狙いを「設備増強の抑制」と語る。EV充電器の場合は、充電時間を車ごとにずらすことで、ピーク電力を減らすことも可能。事前に充電器の設置数、充電時間の予測ができれば、系統の空き容量を最大限活用する運用手法も見えてくる。
 
 ◇系統を見える化
 
 DSOにとって貴重なデータの宝庫で、メーカーにとっても商機が生まれる。空き容量のある配電系統のエリアが富裕層が住む地域であれば、EVと充電器を積極的に提案する戦略も立てられる。別の視点から見れば、ある街区に蓄電池が設置されることで系統の安定化につながる場合、そのエリアの家庭に積極的に導入を働き掛けることも可能だ。

 ディジコーの事業は、DSOの持つ設備の最適な運用方法と、新規ビジネスの創出が期待されている。ある日本の電力関係者は「系統の空き容量を見える化できると、住民との合意形成にも役立つ」と評価。同時に、「ウエストネッツはディジコーで将来の稼ぎ方を模索している」と推測する。

 「エネルギー転換の受け手ではなく、転換のドライバーになる」。こう話すマティス社長は、配電系統の見える化というプラットフォームを利用して、他産業との連携や他国への展開を見据える。現状は「まだ高い質のデータが必要」と述べるにとどめるが、さらなるマネタイズ(収益化)に意欲を示している。

電気新聞2019年4月15日
※ウェブ用に再構成しています

「デジタル化の向こう側 模索する欧州」は電気新聞本紙で連載中です。続きは本紙または電気新聞デジタル(電子版)でお読みください。