温室効果ガスの長期低排出発展戦略(長期戦略)の在り方を議論する政府の有識者懇談会は2日、2050年以降早期に「実質ゼロ排出」を目指すことなどを盛り込んだ提言を示した。省エネルギーの取り組みや再生可能エネルギー、水素、原子力の活用などあらゆる選択肢を追求し、脱炭素化の実現を提唱。石炭火力は依存度を減らすとした上で、二酸化炭素(CO2)排出削減の手段として炭素循環技術の有効性を強調した。主要政策の柱の一つとして掲げたイノベーションでは、次世代原子力開発も明記した。

 日本は6月にホスト国として20カ国・地域(G20)サミットの開催を控える。温室効果ガス排出削減に向けた議論を主導したい思惑も絡んでおり、政府は提言を踏まえてパリ協定に基づく長期戦略策定を急ぐ。

 パリ協定長期成長戦略懇談会(座長=北岡伸一・国際協力機構理事長)は昨年8月に設置。これまで4回会合を開き、専門家から意見を聞いてきた。昨年末にも提言を取りまとめる方針だったが、国連気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が昨年公表した「1.5度特別報告書」の指摘の反映や、分野ごとのビジョンの方向性などを巡って議論が難航。結論が19年度に持ち越された。

 有識者提言では「今世紀後半のできるだけ早期の脱炭素社会実現を目指し、50年80%の温室効果ガス排出削減に大胆に取り組む」と結論付けた。「野心的なビジョン」とする一方、実質ゼロ排出のタイミングを明示することは避けた形になる。有識者懇談会の設置当初から「数字の話は決めきれない」との見方が有力だった。

 「50年80%削減」に関して基準年設定を求める声もあったが、「2度」にせよ努力目標の「1.5度」にせよ、温度上昇そのものを止めるためには実質ゼロ排出の達成が必要。気候変動に詳しい専門家の間では「50年に何割削減するかは、それほど重要でなくなっている」との声も出ている。

 2日に示された有識者の提言では、長期大幅削減に向けた主要施策として(1)イノベーション(2)グリーンファイナンス(3)ビジネス主導の国際展開・協力――を3本柱に掲げた。水素の活用では製造コストを現状の10分の1にすべきと指摘した。グリーンファイナンスに関しては「ダイベストメント(投資の引き上げ)だけでは気候変動に対応できない」と明記。企業の気候変動対策情報の開示などを通じ、ESG(環境、社会、企業統治)資金が集まるメカニズムを構築することが必要とした。

 カーボンプライシング(炭素価格付け)については、中央環境審議会(環境相の諮問機関)で個別施策の方向性の検討が進んでいるものの、今回の提言では「専門的・技術的な議論が必要」との表現にとどまった。

 政府は今回の提言を基に長期戦略を策定し、パブリックコメント(意見募集)を経て正式決定する。その後、国連に提出する。

 パリ協定は京都議定書の次の国際枠組みとして、15年末の国連気候変動枠組み条約第21回締約国会議(COP21)で採択。2度目標の原則の下、温室効果ガスの削減目標と今世紀中頃までの戦略提出を求めている。ただ、戦略の内容は提出国の裁量に委ねられる。

電気新聞2019年4月3日