前回は、電力業界で活発になっているRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)についてその技術の本質、情報システムとの違いや、導入時の留意点について紹介した。今回は、様々な先進企業の導入事例や電力業界の事例を元に、導入のポイントや導入効果を確実にするための取り組み方について紹介したい。

 2015年頃アメリカにてRPA活用によるホワイトカラー業務効率化の機運が高まっていた。日本では16年頃から急速に注目が集まると共に、「働き方改革」に向けた生産性向上への取り組みとも協調し、各所でRPAをテーマとするセミナーが開催された。

 総務省の17年の調査によると、市場規模は17年度が31億円、21年度には100億円規模になると予測されている。

図_中国電力のRPA導入体制_4c

 

「日生ロボ美」入社で1件の処理時間が数分から20秒に

 
 RPAの導入事例として最も有名なのは、大手生命保険会社である日本生命保険の「日生ロボ美ちゃん」だ。日本でRPAブームが過熱する前の2014年に導入。請求書データのシステム入力作業を担当する「社員」として、ロボ美と名付けられたRPAが配属されている。同社では、保険契約者から郵送される保険金の請求書に記載されている約10桁の証券記号番号を入力しなければならない。その業務をロボ美が担当しているのだ。

 ロボ美が入社したことで、それまで業務に当たっていた職員は、証券記号番号をスキャンするだけで良くなった。RPAが社内システムを横断し、データの収集から業務システムへの入力までを代行できるようになった。その結果、1件当たり数分かかっていた処理時間が、20秒程度に短縮。これにより浮いた人的リソースを振り分けて、「パターンに応じた柔軟な対応が必要な業務」など、人間でなければできない仕事にマンパワーを割けるようになった。
 

ロボットを部品化し一元管理。履歴書も

 
 住宅建材メーカー住友林業の情報システム関連会社、住友林業情報システムでは、15年からRPAを活用している。取り組み当初からサーバー型RPAを導入。多数のロボット作成を経験する中で情報システム部門主導の開発体制を推進した。

 開発に当たっては、徹底的な部品化を進めるとともに、開発したロボットを一元的に管理するシステムも作られた。エクセルデータの高速処理技術も、同社が得意とするところだ。メンテナンス性を高めるため、プログラム仕様書に相当するロボット履歴書も整備する。経験豊富な同社だが、その狙いは社内業務の効率化だけにとどまらない。同社グループのハウスメーカー部には60を超える支店があり、全支店で共通する業務のロボット化を検討している。さらにその先は、千社に及ぶ取引先へのサービスも視野に入っている。
 

中国電力ではパイロットでの実績を受け、全社展開へ

 
 中国電力では16年12月に、生産性向上技術として兆しのあったRPAに着目した。早速、当時発足間もない日本RPA協会にRPA講演会を依頼。RPAの概念とその導入効果、先進企業事例について認識を深めた。17年7月には、エネルギア・コミュニケーションズ(エネコム)に依頼し、情報通信部門の社員約100人にロボット作成研修を実施した。技術の理解とロボット作成の体験は、その後の活用を加速させる。

 情報通信部門では、パイロットとして次の2つの業務を選定し、RPA化を実施。あわせてRPA化工程を整理し、ロボット設計書をはじめとする各種ワークシートを整備。パイロット期間終了後、速やかに本格導入を推進できるようルール化した。

 ▽契約実績連携業務
 業務担当者は手作業でエクセルからCSVファイルにデータ加工していたため労力の他、作業ミスの可能性もあった。RPA化によりミスを払拭し、さらに作業時間は、RPA化前の190分から17分へと1割以下に短縮した。

 ▽工事単価改訂業務
 工事単価の管理業務では単価データ改訂時に複数のシステムへ手作業で入力していた。転記ミスのリスクに加え、チェック漏れの可能性もあり、システムへの入力期間に制限があったことから休日出勤で対応することも多く精神的な負担となっていた。RPA化により、担当者の確認作業は抽出されたエラーデータの確認のみとなり、一連の作業時間もRPA化前の420分から18分弱へと大幅に圧縮された。

 パイロットの結果を受けて、18年1月には全社で利用可能なサーバー実行型RPA環境を構築。社内クラウド環境を活用し、短期間で開発環境と本番実行環境を設け、10ある業務部門からのRPA利用希望の受け入れ態勢を整備した。

 以上、いくつかの事例を紹介したが、各社に共通な点は、取り組みのスピード感と体験に基づく推進体制の確立だ。

 RPA導入は技術のハードルが低い割に効果に即効性があるのが特徴だ。その特性を見極め、スピード感をもって体感する。一方、本格導入に当たっては、ノラロボの発生などの懸念に対し、体制を整備して現場を支援する。これから導入を進める場合、先進企業のノウハウが大変参考になる。

 RPA導入の機運は全国各地域にも広がっている。次回は、RPAを巡る地産地消モデルについて紹介する。

電気新聞2019年2月18日