2年ほど前からRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)というキーワードが、ITトレンドの上位に並ぶようになり、昨年はRPAフィーバーと呼ばれるほど首都圏の大手企業を中心として導入が進んでいる。電力業界においても電力会社の導入をきっかけにICT系関連会社が次々と支援サービスへの参入と提携を発表した。RPAは企業活動の何を変え、どのような効果をもたらすのか、3回に分けて紹介する。
 

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 2017年6月、中国電力のRPA導入をきっかけに、エネルギア・コミュニケーションズ(略称エネコム)はRPA事業に参入。同11月には業界をリードするRPAテクノロジーズ(大角暢之社長)への資本参加を踏まえ、全国初のクラウドサービスを開始した。

 他の電力も次々とPoC(導入検証)を開始し、関連ICT企業がRPAビジネスに乗り出す事例も活発になってきている。働き方改革に向けた生産性向上の機運も相まって電力業界におけるRPA元年といわれるほどブームになっている。しかし、その取り組みはこれまでの情報システムとどう違うのか。そして、その効果はオフィス業務の何をどう変えるのか。最新動向を踏まえて紹介したい。
 

24時間365日働けるデジタルレイバー

 
 RPAとは「Robotic Process Automation」の略語であり、日本語では、「ソフトウエアロボットによる業務自動化の取り組み」の事を指す。RPAはオフィスのルーティン業務をソフトウエアロボットに肩代わりさせることで大きな生産性向上を実現する事を目指している。

 このソフトウエアで開発されたロボットを労働者に例えて「デジタルレイバー(知的仮想労働者)」と呼ぶこともある。特に近年は、労働者の長時間労働の是正や働き方改革が叫ばれており、こうした課題を抱える事務部門に導入する企業が多くなってきた。

 RPAの仕組みは、ルールを登録しておくだけでこれまで人間が目視で行っていたディスプレー画面上の作業を、自動的にそれを再現して処理ができるというものであり、24時間365日働くことができる。

図_RPAツール_4c

 ここまで、RPAの仕組みを説明してきたが、よく、情報システムと同じものだと理解している人がいる。図に示すように、人間は情報システムを利用して業務を行っているが、RPAは情報システムに一切変更を加えることなく人の作業の一部を代行するものである。これがデジタルレイバーと呼ばれる由縁である。

 また、RPAは情報システムと違って、導入後すぐに使えるというわけではなく、代行させる業務をデジタルレイバーに覚え込ませるという作業が必要だ。

 また、情報システムは開発を行う際に、手順の変更やあらゆる例外処理を想定して作られる。それに対し、RPAでは、デジタルレイバーに現在人間が行っている作業手順をそのまま覚え込ませるため、前提条件やルールが変わるとどうしてよいか分からなくなり、作業を止めてしまう。また、デジタルレイバーは自ら学習しないので、新しいルールができる度に、手順を覚え込ませる必要がある。

 ある企業で、ルーティン業務をデジタルレイバーに置き換え、運用テストを行ったところ、大きな効果が出ていた。ある時、業務の運用が一部代わり、デジタルレイバーが停止したため、その部署では、もともとそのルーティン業務を行っていた現場の社員が数日間残業して乗り切った。その報告を受けた役員がデジタルレイバーの威力に驚き、正式導入を即決したという。

 このように、デジタルレイバーは万能ではないが、管理者が動作を監視し、必要に応じてカスタマイズを加えることで、驚くべき高い生産性を発揮する。
 

あくまで人間の作業のコピー。過度な期待は禁物

 
 RPAはその導入しやすさから現在急速に普及し始めている。そもそもパソコン操作をそのまま覚えるので業種業態を問わないし、導入方法も様々だ。

 しかし、導入の容易さと過度な期待から、トラブルも多発している。例えば、社内に開放したクライアント型のRPAツールが夜中に稼働し、ウイルス検知システムにキャッチされたケース。基幹システムにアクセスするロボットが無限ループに陥り、レスポンス悪化により業務影響が発生したケース。現場で開発されたロボットが担当者の異動によりメンテナンスできなくなるケースなどだ。

 こうしたトラブルは導入後の管理体制の検討が不十分な場合に起こりがちで、その防止には経験豊富な事業者の支援が有効だ。

 また、いくらRPAの効果が大きくても安易に要員の削減に結び付けるべきではない。

 デジタルレイバーは完全ではなく、あくまで人間の作業のコピーである。進捗状況の監視や異常終了時のリカバリーは必要だ。その上で要員配置の考え方を見直し、新規事業や営業要員の増員など、企業の競争力強化へ振り向けることが重要だ。

 すなわち、労働人口の減少や働き方改革が叫ばれる昨今、貴重で業務経験豊富な社員を、ルーティン業務から解放し、活躍の場を創造する経営力が問われている。

 次回は、RPAを活用し競争力強化にチャレンジする導入企業の事例を紹介したい。

電気新聞2019年2月4日