電力自由化による競争と温暖化対策という2つの政策目標の関係性がきしみ始めた。経済産業省は温暖化対策の重要ツールと位置付けるエネルギー供給構造高度化法(高度化法)の運用を巡り、目標達成の緩和措置を設ける方向で検討を進めている。小売電気事業者の競争環境に過度な影響を及ぼさないための措置だが、運用の手綱を緩めることで温暖化対策が計画通り進まなくなる懸念が高まっている。

 エネルギー政策は大きく分けて「安定供給」「環境適合性」「経済性」という3つの要素で構成される。時代の変化や技術の進化に対応しつつ、これら3つのバランスをどう取るかが、本来は政策当局の腕の見せどころだ。

 だが、東日本大震災後、「経済性」の観点から急速に進めた自由化に他の2要素が追い付かず、互いの関係性が相反する局面が出てきた。昨年9月に起きた北海道でのブラックアウト(エリア全域の大規模停電)は、安定供給と自由化の関係性に疑問符を突き付けた。
 
 ◇両立の難しさ
 
 今後、問われることになりそうなのが温暖化対策と競争政策の関係性だ。高度化法の目標設定を巡る最近の議論では、この2つの目標を両立する難しさが浮き彫りになっている。

 高度化法は2030年度に国内の発電電力量に占める非化石電源比率を44%に高める目標に基づき、一定規模以上の小売事業者に達成を求める仕組みだ。ただ、対象となる46の小売事業者の17年度実績は平均18%で、このうち30者が5~10%にとどまる。44%達成に向けた道のりは険しい。

 それでもあくまで44%の実現を目指すなら個々の小売事業者に厳格な目標を課し、短期的なコスト増に目をつぶってでも非化石電源の調達比率上積みを促すしかない。だが、足元で進む議論はその逆だ。経産省は非化石電源を持たない小売事業者への影響を緩和する特例措置の検討を始めた。

 具体的には、30年度44%の目標を維持しつつ、達成状況を評価する中間評価の際、非化石電源比率が全体の平均値を下回る事業者の目標を引き下げる「グランドファザリング」と呼ばれる制度の導入を予定している。

 全体としての目標も至近実績から30年度44%まで直線グラフをひいて設定するのではなく、20年代前半の設定を緩め、後半にかけて尻上がりに増やす形を検討している。
 
 ◇二兎追う経産省
 
 こうした議論の背景には、温暖化対策で厳しすぎる目標を課すことが、小売事業者間の格差を広げたり、負担増を理由にした撤退を増やすことへの懸念がある。

 実際、全国平均より非化石電源比率が低い新電力の関係者は、「もともと新規参入者にとって44%が高すぎるという不満はあるが、(グランドファザリングが導入されれば)当面の対策費用がかなり抑えられそうだ」と話す。

 中間評価で目標に届かない事業者は非化石価値取引市場を活用したり、相対での調達を増やすなどして、自社の比率を高めることが必要になる。目標が引き下げられれば、そうした費用が減る。原子力発電所の再稼働が進んでいない大手電力の小売部門にとっても、緩和措置はプラス要素といえそうだ。

 一方で、安易な目標の緩和に異論を唱える声もある。ある大手電力の関係者は「初期の目標を緩和しても、最終目標を変更しない以上、非化石電源比率が低い事業者にはどこかで厳しい目標を突き付けざるを得ない」と指摘。その上で「今の議論は問題の先送りにすぎないのでは」とし、整合性を欠く政策を組み合わせ、競争と環境の二兎を追う経産省の姿勢に疑問を呈す。

電気新聞2019年3月20日