ネクスト・クラフトヴェルケのオフィスには、コンピューター開発草創期に、プログラミング言語「COBOL」を開発した米国の女性科学者、グレース・ホッパーの残した言葉が掲げられている。常に前を向き、現状を疑うことができるか――問い続ける姿勢が重要だ
ネクスト・クラフトヴェルケのオフィスには、コンピューター開発草創期に、プログラミング言語「COBOL」を開発した米国の女性科学者、グレース・ホッパーの残した言葉が掲げられている。常に前を向き、現状を疑うことができるか――問い続ける姿勢が印象的だ

 2011年にドイツが国を挙げて提唱した「インダストリー4.0」。スマートファクトリーやIoTなどを打ち出したこの概念は、世界中の産業基盤を「デジタルプラットフォーム」に変えていった。

 インダストリー4.0の動きは、欧州のエネルギー産業においても進んでいる。時を同じくしてエネルギー産業で起こった、再生可能エネルギーの急増と電力系統への接続拡大という「De-Carbonization (脱炭素化)」「Decentralization(分散化)」を、従来型システムに調和させる技術として、また新たなビジネスを創出するためのカギとして、「Digitalization(デジタル化)」が進められているのだ。
 

データの集積から新しいサービスは生まれるか――

 

ネクスト・クラフトヴェルケが顧客の設備を制御するネクストボックス
ネクスト・クラフトヴェルケが顧客の設備を制御するネクストボックス

 ドイツのスタートアップとして誕生したネクスト・クラフトヴェルケ。急成長を遂げ、およそ7000件・600万キロワットの需給調整リソースと契約を結ぶ、世界最大規模のVPP(仮想発電所)事業者となった。投資家たちを呼びこむ魅力の源泉は、顧客側の目線に立った柔軟性の高いソリューションと、多様で膨大な分散型資源の運用データ集積にありそうだ。

 しかし、集めたデータをどう活用していくのかという点は、欧州のエネルギー事業においても、いまだ模索が続いているように映る。

 例えば英国の電力・ガス会社であるセントリカ。顧客エンゲージメントでは欧州内でも進歩的とされるが、現在のデータ活用は、顧客側設備の保安や高齢者見守りなどのサービス、スマートホーム化への対応が中心。この分野で飛躍的な発想のサービスを生むことの難しさは世界共通のようだ。

 一方で、ドイツの配電事業者ウェストネッツでは、屋根置き型太陽光発電や電気自動車の急速充電システムの接続急増への対応に迫られ、電力需要データに加えて各種の顧客データを取り込み、配電運用の現状から将来予測を「見える化」したプラットホームを導入した。開発したのは親会社のイノジーとシリコンバレーの企業が立ち上げた企業。顧客や社会の再生可能エネルギー利用への要請に応えると同時に、できるだけ効率的に設備形成を進めていくためには「見える化」がカギだという。投資効率向上や合意形成に活用できると実証できれば、ドイツ内だけでも900ある配電網所有自治体、または海外の電気事業者に売り込めるとの目算がある。
 

長期的視点でブレークスルーに備える

 

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アーム本社。スマートメーターを基点に、旧来の半導体設計にとどまらないIoT事業を展開する

 エネルギー事業者による取り組みの「その先」をにらむ企業もうごめく。電力取引のブロックチェーン基盤を世界的に展開しようと活動する団体、EWF(エナジー・ウェブ・ファウンデーション)。理論上はさておき、技術面でなかなか突破できないという課題を抱えつつも「長期の視点でブレークスルーに備えよ」と説き、エネルギー企業を呼び込む。

 スマートホーム化におけるIoTセキュリティーの重要性の高まりを見据え、これまで電力やエネルギー事業からは比較的遠いところにあった半導体設計の雄、英アームも協業による新たな事業展開の可能性を呼びかける。
 

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 3つの「D」が欧州の電気事業に何をもたらしているのか、さまざまな業界との壁がなくなりつつある中で、エネルギー事業はどこへ向かうのか――。模索が続く英国とドイツに見る現状を4月、電気新聞本紙と電気新聞ウェブサイトでレポートします。ご期待下さい。