
◇経済産業省・資源エネルギー庁 省エネルギー・新エネルギー部長 伊藤禎則氏
インフレや円安などで再生可能エネルギー事業に逆風が吹くが、経済産業省・資源エネルギー庁の伊藤禎則・省エネルギー・新エネルギー部長は「世界のエネルギー政策の座標軸は脱炭素から安全保障に代わっており、再エネなしでは日本のエネルギーを賄えない」と強調する。今後の政策の方向性について「国民負担の抑制と事業者の採算性確保という二元連立方程式を解く」との考えを示す。(聞き手=匂坂圭佑)
――第7次エネルギー基本計画の要点は。
「最大のポイントは電力需要が増加見通しに変わったことだ。そこで鍵となるのは投資で、事業者の投資を呼び込めないと安定供給を確保できない。国民負担の抑制と事業者の採算性確保の二元連立方程式を解く必要がある」
「国民負担を増やさずに採算性を高めるため、FIT(固定価格買取制度)からFIP(フィード・イン・プレミアム)への移行を促す。FIPなら発電のタイミングや売り方によって収入を増やせる。FITの最大の弊害は事業者に創意工夫の余地が全くない点だ。FITの負の遺産を処理していく」
◇供給力担う電源
――再エネの事業環境が世界的に厳しくなっている。
「英BPをはじめ再エネへの投資に慎重な姿勢を示す企業が現れ始めた。トランプ氏の大統領令も再エネに逆風との見方がある。だが、化石燃料の貿易量は世界で減っており、エネルギーの地産地消はこれからも進む。政策の座標軸は脱炭素からエネルギー安全保障に切り替わった。原子力や火力だけでなく、再エネにもしっかり取り組まないと電力需要を賄えない。コストが増えたから原子力や再エネをやめるのではなく、コスト低減に向け知恵を出し合う必要がある」
――洋上風力の事業環境は特に厳しい。
「重要部品を海外から調達しており、世界的なインフレと円安の影響が直撃している。一方、米国で風力発電の案件が停滞し、欧米の風車メーカーが日本市場への関心を高めている。毎年、安定的に入札を継続している主要国は多くない。外資の力も借り、サプライチェーンを再構築してコストを下げていく」
◇水素需要を拡大
――水素事業もインフレ影響を受ける。
「水素バブルがはじけ、残った人は真剣に事業を吟味している。水素は市場が未成熟のため、まず需要を広げるのが重要だ。毎年秋に開いている水素閣僚会議を発展させ、韓国やドイツなど需要国で連携する。規格の標準化やルール整備を議論する。コストを下げるための国際的な仕掛けをつくる」
――エネ基で太陽光の導入拡大を掲げた。
「イノベーションの伸び代に大きく期待している。日本が世界をリードするペロブスカイト太陽電池でアジアや欧米を含め世界市場を狙う」
「中国製のシリコン太陽電池が普及するが、安全保障の観点から特定国にサプライチェーンを依存してよいのかという問題意識は、トランプ政権とも共有できている。国内で完結させず、世界で市場を広げてコストを下げていく」
◇メモ
電力・ガス事業部に在籍時、ザ・チルドレンズ・インベストメント・マスター・ファンド(TCI)によるJパワー(電源開発)への買収提案を外為法に基づき防いだ。「エネルギー安全保障の概念を真剣に考える先駆けだった」と振り返る。当時のエネ庁長官で後に事務次官となる望月晴文氏から「選択肢で悩む時は難しい方を選べ」との言葉を授かり対応した。総理秘書官として仕えた岸田文雄氏の「先送りできない課題に取り組む」姿勢と「相通ずるものがあった」と語る。休日は家で小型犬2匹と猫1匹に癒やされる。53歳、東京都出身。
電気新聞2025年5月9日