◇水素の着火「見えない」難題/特定波長の光で捉える

 前回まで、ガス漏えいに対処するためのガス可視化技術について述べた。今回は、漏えいした気体燃料に着火した際の対策として、火炎の可視化技術について紹介する。例えば水素火炎は視認が困難であることから、特に昼間屋外環境では、着火しても気付くことができないケースが多く、非常に危険である。また、水素由来の火災現場や燃料電池自動車による交通事故現場では、見える火炎と見えない火炎が混在する状況が想定されるため、対策が必要となる。


 ガス漏えいに次いで対処が必要なのが、漏えいしたガスに着火した場合である。一般に、燃焼中の火炎は目に見えるものと考えられているが、純水素が燃焼した場合の火炎は人の目に見えない。これは、水素火炎が発する光に人の目に見える波長域である可視領域の光が含まれていないためである。また、アンモニア火炎については視認可能であるが、太陽光の下など、背景光の条件によっては視認が困難な場合がある。加えて、水素、アンモニア両火炎に言えることであるが、ボイラーなどでこれらの火炎を利用する際に、周囲の高温環境が火炎領域の認識を著しく困難にさせる。このように、保安用途、監視制御用途として、火炎の可視化が求められている。

 ここでは、水素火炎の可視化を例にその原理と装置について述べるが、アンモニア火炎についても基本的には同じ概念で可視化できる。

 ◇モニター上で再現

 水素火炎は目に見えないが、可視領域から外れた紫外域や近赤外域、遠赤外域の光は放射されている。従って、これらの波長域の光を選択的に捉え、画像処理を加えることによって、モニター上で水素火炎を可視化することが可能である。このような光学的手法を受動紫外・赤外分光法と呼ぶ。

 水素火炎可視化に利用する発光は、用途やコストに照らして選択する。例えば、紫外領域の発光は約309ナノメートルにピークを有し、水素の燃焼過程で生じるOHラジカルによるものであるが、この発光をバンドパスフィルターで選択的に撮像し、可視画像と重ね合わせることで水素火炎が可視化できる。この手法を用いると、概ね周辺温度の影響を受けずに可視化することが可能であるが、比較的高感度なカメラが必要になるため、コストが高くなる。

 一方、近赤外領域の発光は、930ナノメートルあるいは1400ナノメートル付近で幅広く分布し、燃焼過程で生じるH2Oによるものであるが、この発光によっても、同様の方法で可視化することが可能である。近赤外領域を用いる場合、配管網やベントなどの水素関連設備における着火の有無を確認するなどの常温環境での用途に適しており、かつ930ナノメートルの利用はコストが低い。その反面、高温環境では輻射の影響を受けるため、適用が困難となる。更に、これらの内複数の波長域の画像を取得して、AND処理による水素火炎判定を加えることで、より周辺環境の変化に強い水素火炎可視化装置を実現することが可能となる。
 

高性能水素火炎可視化装置はタブレットとセットで使用
Hydrogen Flame Glassはヘルメットに装着しスマートグラスのレンズ上に表示する


 ◇本格的社会実装へ

このような構想の下、今後の本格的な社会実装を目指し、紫外領域と近赤外領域の発光を利用して水素火炎を可視化する装置(高性能型水素火炎可視化装置)や、近赤外領域の発光のみを利用してスマートグラス上で水素火炎を可視化する装置(H.F.G:Hydrogen Flame Glass)の開発を進めている。(この項おわり)


電気新聞2024年12月23日