サーモンの陸上養殖設備
サーモンの陸上養殖設備

 九電グループは、電気事業を通じて培ってきたノウハウを生かし、未来志向型で地域の活性化にも貢献する多様な事業創出に力を入れている。その取り組みとして推進するのが「KYUDEN i―PROJECT」で、その枠組みのもと、新規事業の創出にチャレンジしている。本連載では、「KYUDEN i―PROJECT」で推進する「サーモンの陸上養殖プロジェクト」を例に、九電グループのイノベーション創出の取り組みを紹介する。

陸上養殖されたサーモン
陸上養殖されたサーモン

 電力会社は「電気をつくってお届けする」だけの存在ではなくなりつつある。再生可能エネルギーの普及や脱炭素社会の進展──。社会環境が大きく変化する中で、電力会社も自らの在り方を問い直す時代に入っている。

 こうした中、九電グループでは「KYUDEN i―PROJECT」という全社横断的なイノベーション創出の取り組みを推進している。これは、「innovation(革新)」の“i”を冠し、電力に限らず未来社会に必要な新たな事業を育てていくための枠組みとなる。

 この「KYUDEN i―PROJECT」から生まれた一つの事業が、福岡県豊前市で展開している「陸上養殖プロジェクト」。サーモンを海ではなく陸上で育てる、九電グループならではの持続可能型一次産業だ。

遊休資産の利活用

 養殖事業というと水産会社の領域と思われがちだが、この事業には電力会社だからこそ実現できた多くの要素が組み込まれている。

 まず注目すべきは、かつて重油を燃料とする発電所として運用されていた「豊前発電所(2026年3月廃止予定)」の敷地を活用している点だ。発電所を廃止するには、莫大な撤去費用がかかることから、九州電力はこの遊休地に価値を見いだし、新たな地域資源として再活用するという発想に至った。

 次に、電力会社として培ってきた“エネルギーマネジメント”のノウハウがある。陸上養殖には膨大な電力を使用する水温調整や酸素供給などのシステムが必要であり、そのエネルギー管理は事業採算性に直結する。これに対して、九電グループの技術力が最大限に発揮されているとともに、高い負荷率を活かした電力需要創出と収益化が可能となっている。

 さらに、電力会社として築いてきた“地域との信頼関係”もこの事業の礎となっている。長年地域とともに歩んできた九電グループは、地元の漁協や自治体と連携を深め、雇用創出や町おこしに取り組んでいる。

一次産業を再設計

 この新たな陸上養殖事業では、次の“三つの柱”を重視している。

 1.持続可能な事業展開=環境と共生し、脱炭素社会にも貢献する一次産業のモデルを構築

 2.地域コミュニティーとの共創=地域住民や事業者、自治体と連携し、養殖場を核とした地域活性化を推進

 3.安全・安心の追求=消費者が安心して口にできる魚づくり(トレーサビリティー・品質管理)を徹底

 また、サーモンという魚種に着目した背景には、近年の海水温上昇や漁獲量の不安定化を背景とした“水産業の変化”がある。国内の魚食文化が変わる中、サーモンは市場規模も年々拡大し、需要も通年安定しているという特徴がある。養殖に要する期間も比較的短く、年間出荷も可能であり、事業の安定性が見込める魚種であることも、サーモンを選んだ理由として挙げられる。

 このように、九州電力が陸上養殖に参入することは、単なる新規事業の創出にとどまらない。「電力会社が一次産業を再設計する」という、新たな地域産業創出モデルの構築の意義も持ち合わせている。

 次回は、この陸上養殖事業の技術的な仕組みや、実際の飼育方法についてご紹介していこう。

電気新聞2025年6月30日