北米が先行するエネルギーAI(人工知能)6事例を選び、主なスタートアップを紹介する。(1)AIデータセンター(DC)の効率化。DCの消費電力削減にはハードウェア(省電力AIチップ、液浸冷却など)とソフトウェア(AIモデル軽量化など)のアプローチがある。後者の新しい技術を説明する。(2)経営の意思決定支援。意思決定AIには資産投資計画、グリッド最適化、発電ポートフォリオ最適化などがある。資産投資計画を取り上げる。さらに(3)フィジカルAI(4)DLR(動的線路定格)(5)地下可視化(6)原子力AI――を取り上げる。


 (1)DCの効率化

 増大するDCの電力は喫緊の課題だ。米Emerald.AIはAIジョブの優先度(柔軟性)を利用してGPUの負荷を下げる。EPRI(米電力研究所)のプロジェクトで、米電力SRP管内で米Amperonが予測した電力需要ピーク時、優先度の低いAIジョブの計算速度を落とすことで、オラクルDCの消費電力を下げる実験を行った。結果、AI品質を下げることなく、DC消費電力を25%削減した=図参照。同社はDCの柔軟性をVPPリソースにして、送電網の増強を抑えつつDC増設との調和を図る。また、米NeuralwattはGPUを直接制御して消費電力を下げる。通常GPUは高いパフォーマンスを維持するために、必要以上に高い電圧と周波数で動作する。GPUの挙動をミリ秒単位で解析し、アイドル時間(メモリとのデータ転送待ち)に電圧と周波数を下げることでパフォーマンスを落とさず電力消費を抑える。

 (2)経営の意思決定支援

 資産投資計画の最適化にも、AIが活用されている。カナダDirexyonはインフラのライフサイクルをシミュレーションし、最適な投資戦略を導き出すプラットフォームを電力会社に提供する。具体的には、設備の劣化曲線と故障確率、修繕履歴を統合し、将来のパフォーマンスを予測する。次に「予算を10%削減した場合、20年後の停電リスクは?」「特定の変電所の更新を5年遅らせた際の影響は?」といった数千通りのシナリオをAIで高速にシミュレーション。最後に財務、リスク、信頼性、ESG目標など相反するKPIのバランスをとりながら、投資プロジェクトの優先順位を自動で最適化する。カナダ電力ハイドロケベックは資産の老朽化リスクを定量化、規制当局への投資計画の説明や料金妥当性の根拠として活用する。

 (3)フィジカルAI

 AIロボットがエネルギーの現場に導入されつつある。世界初、メガソーラーの基礎杭打設の完全自律ロボットを米Built Roboticsが開発した。既存の重機に自律化機能を後付けする。AIカメラで環境認識し、杭位置の検知精度はミリレベル。メガソーラー建設には数万本の杭打設が必要となる。本ロボットは日に300本の杭打設を自動化し、施工は5倍速となる。

 (4)DLR

 DLRの商用化で先行する北米の有望な3社を紹介する。米Linevisionは送電鉄塔に設置する非接触型センサーとAI解析で温度と風速、送電線のたわみを検知、送電容量を最適化する。Heimdall Powerはノルウェー発だが北米で急伸。ドローンで球状センサーを電線に自動設置、AIで送電網をリアルタイム監視する。イスラエルPrisma Photonicsは送電線に併設されている既存の光ファイバー内にレーザー光を送り、光の散乱をAI解析する。変電所に装置1台を設置することで200キロメートルの送電網をリアルタイム監視。イスラエル全土で実装され、EPRIと北米で実証実験中だ。

 (5)地下可視化

 米KoBold Metalsは掘削と地質、衛星画像のデータをAI解析し地下鉱床の高精度な予測モデルを開発。ザンビアで巨大銅鉱床を発見した。米Zanskarは地熱資源の探索をAIで効率化する。

 (6)原子力AI

 原子力分野では運転、規制対応、建設などの効率化にAI導入が進む。世界初の原子力発電所建設特化AIの注目株は、米The Nuclear Company。発電所建設は工期遅延や予算超過が続く。同社は工事進捗、部材状況、天候を分析し現場作業を最適化する。材料到着と工事ステップの依存関係から作業優先度を決め、工期遅延リスクを低減する。サプライチェーンを追跡し、誤配送や不足を予防しコストと品質を最適化する。

電気新聞2026年2月2日