欧州が先行する4カテゴリーで主なスタートアップを紹介する。(1)ソブリンAI(人工知能)。EU AI Act(AI規制法)本格運用に向け、重要インフラのAI利用には極めて高い透明性とデータ主権が求められるようになった。米中へのAI依存を脱し自域内の規制と価値観に適合した「ソブリンAI」の採用が加速する。(2)物理AI。AI活用の焦点がソフト面から物理世界へと拡張した。(3)意思決定支援AI。不確実性が増大し、長期かつ複雑な意思決定支援AIが必要となった。(4)AIトレーディング。電力取引が短時間化し、AI自動取引が不可欠となった。

(1)ソブリンAI
フランス電力(EDF)は重要インフラを管理するため、米中AIの利用には次のリスクが伴う。(1)データ主権の欠如(機密データが米中のサーバーを経由・学習されるリスク)(2)戦略的依存(政治的状況により外国企業のサービス停止が電力インフラの運用に支障をきたすリスク)――。そこでEDFが提携したのが仏Mistral AI(2023年創業、以下M社)だ。同社のAI基盤は高い性能を持ちながらモデルの重みの公開やオンプレミスを重視、EDFにとってデータの外部流出を完全に遮断できる理想的なパートナー。EDFは閉域網内にM社モデルを実装し、発電所の運用・保守支援、送電網や顧客情報などの完全ローカル処理において、独自の推論環境を構築する。仏TotalEnergiesはM社と協業しソブリンAI基盤を構築する。
欧州のソブリンAIスタートアップでM社と双璧をなすのが独Aleph Alpha(19年創業)だ。同社は欧州のデータ主権を重視した大規模言語モデルを開発、EU AI ActやGDPR(EU一般データ保護規則)に準拠しデータ保護・プライバシー順守、透明性・説明可能性、オンプレミス運用や欧州内インフラでの運用を重視した「信頼できるAI」の枠組みを産業界・公共セクター向けに提供する。
「AI Factories」構想の中、欧州は欧州製のAIスーパーコンピューターを開発する計画。その中核となる欧州製ハードウエアを開発するのがオランダAxeleraAI(21年創業)などのスタートアップだ。米NVIDIA代替として期待されている。
(2)物理AI
英PhysicsX(19年創業)はAIと物理シミュレーションを統合し、従来のエンジニアリングプロセスを大幅に進化させた。従来のAIは相関関係を学習し「統計的にあり得る答え」を出す。同社のAIは学習の段階で物理法則を組み込み「物理的にあり得ない答え」は出さない。同社のコア技術は独自の深層学習モデル(Large Physics Models)だ。従来のスパコンで数週間要した流体・構造解析を数秒~数分に高速化。AIが物理法則を理解した上で、人間には思いつかない最適な形状を逆算して自動生成する。電力業界では、発電設備やエネルギー機器の設計最適化、タービン・熱交換器・冷却系の性能向上、再エネ設備や低炭素技術の設計検討高速化などで実績がある。
(3)意思決定支援AI
仏Cosmo Tech(10年創業)は電力業界向けに経営戦略レベルの意思決定を支えるAIシミュレーションを提供する。設備単体を可視化する従来型デジタルツインとは異なり、発電、送配電、資産管理、投資計画といった企業全体を見渡した意思決定を仮想空間上で再現できる点が特徴だ。数千~数万通りの将来シナリオを同時に計算し「どの選択肢が、いつ、どの条件下で最適か」を比較・提示することに強みを持つ。電力業界では、再エネ発電設備や水力資産の更新から保守、投資計画までを長期視点で最適化、スマートグリッド化や系統強化を見据えた投資ポートフォリオ全体の最適化などで実装されている。いずれも、現場最適ではなく、長期全体最適を目的としている点が特徴だ。
(4)AIトレーディング
オランダDexter Energy(17年創業)はTrading as a Serviceのリーダー。予測から入札執行、蓄電池制御までを一気通貫で自動化する。10種類以上の主要な気象モデルを統合し、価格や発電量を確率分布で予測。リスクを最小化する最適な入札戦略を構築し、実行する。80社以上の電力顧客を抱える。
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全6回で海外エネルギー大手のAI活用と有望な欧米エネルギーAIスタートアップを紹介した。この分野の進化は激しいため、またの機会に続報をお届けしたい。(この項おわり)
電気新聞2026年2月9日





