◆世界の長距離送電支える
再生可能エネルギーやデータセンターの増加によって安定的な電力系統の形成が課題となる中、それを支えるパワーグリッド産業に超好況期、いわゆる「スーパーサイクル」が到来している。その中で、圧倒的な存在感を放つのが日立エナジーだ。再エネの長距離大容量送電による系統連系などを可能にするHVDC(高圧直流送電)システム市場では過半のシェアを握り、脱六フッ化硫黄(SF6)ガスを実現した開閉機器なども着々と市場に投入している。これらの先進技術や競争力はいかに生み出されているのか。同社の源流であるスウェーデンとスイスを訪ね、同社の競争力の背景と日本市場に対する姿勢を探った。
日立エナジーは2020年、日立製作所によるスイスの重電大手ABBのパワーグリッド事業買収で誕生(当時は日立ABBパワーグリッド)した。そのABBは、スウェーデンのアセアとスイスのBBCの合併で設立された経緯がある。スウェーデン側の源流をたどると同国中部のルドヴィカ工場に行き着く。
スウェーデンの玄関口・ストックホルム空港から車を走らせること約3時間。白樺が立ち並ぶ北欧らしい風景を抜けた先に、そのルドヴィカ工場が姿を現す。
小さな田舎町に立地するこの工場は、1900年に鉱山や発電所に電気機械装置を供給する拠点として誕生。3相交流送電システムや大型変圧器、高電圧開閉装置といった数多くの先駆的な技術を世に送り出してきた。日立エナジーはHVDCシステムの旗艦工場でもある同工場を自社事業における「王冠の宝石」と形容する。
ルドヴィカ工場はHVDCの商用技術誕生の地でもある。1954年にはスウェーデンの本土とゴッドランド島との間を海底ケーブルによる直流線路で結び、本格的な直流送電を成功させた。
◇実用化70周年に
今年10月、日立エナジーはHVDC実用化70周年を祝い、約40カ国の送電系統運用者ら70人をルドヴィカ工場のファクトリーツアーに招待した。トーマス・クライセン・スウェーデンHVDC事業責任者は「当社のパワーエレクトロニクス技術はエネルギー転換を加速させる鍵になっている」と胸を張った。
実際、同社のHVDC技術は、欧米を中心に世界各国で効率的な長距離送電を支えている。現在までに世界で導入済みのHVDC連系容量は約3億キロワット。このうち日立エナジーが連系を支援した容量の合計は1億5千万キロワットを超える。同社がHVDC技術でグローバルトップの地位を築き上げていることを裏付ける数字だ。
◇60ヵ国から人材
では、ルドヴィカ工場の強みは何か。アンドレアス・ベルトウ・HVDCヘッドは、工場が単なるものづくりの現場にとどまらず、試験施設、研究施設の集合体として世界に類を見ない大規模施設として機能し、そこに世界中から優秀な人材が集まっている点を挙げる。実際、同工場では60カ国から集まった約4300人もの従業員が働く。製品輸出に必ずしも優位とはいえない立地も、製品をコンパクト化する努力につながっているという。
現在、ルドヴィカ工場は、直流送電用の変圧器や遮断器などの高電圧製品の生産、交直変換の役割を担うHVDCバルブの組み立てなどを行っている。進行中のプロジェクトも多い。洗練された工場内のレイアウトと生産ラインは、その証左といえる。
バルブの組み立ては流れ作業で、各作業ステーションに作業者を割り当て、決まった時間ごとに対象物がラインを移動する。手作業にはボルト締付トルクなどの細かい規定があり、作業者はプラモデルを組み立てるかのように熟練した手さばきで対象物を扱う。最近新たに導入したというロボットは、バルブの構成部品で重さが100キログラム超にもなるキャパシタを造作もなく組み付ける。
同工場では、HVDCシステムを監視・制御・保護するシステムの構築も行う。HVDCの信頼性を確保する「頭脳」とも呼ぶべきもので、同社は30年以上にわたる運用経験を持つ。長年のHVDC納入経験に裏打ちされたこのシステムも、同社の大きな強みになっている。
電気新聞2024年12月16日