東芝エネルギーシステムズ(東芝ESS)の送変電設備製造拠点である浜川崎工場(川崎市)が、活況に沸いている。主力製品である開閉器や変圧器の需要が旺盛で、製造ラインを増強する計画も控える。国内で初めて絶縁ガスに自然由来ガスを用いたガス絶縁開閉装置(GIS)、他社では取り扱いのないガス絶縁変圧器など多様なニーズに応える製品展開も強みだ。
JR川崎駅から車でおよそ30分。浮島町の名前が示す埋め立て工業地帯に入ると、1962年創業の浜川崎工場が姿を現す。周囲は多摩川や東京湾に囲まれ、製品出荷に適した立地だ。
現在の浜川崎工場の事業環境は、データセンターの急増などに伴う電力需要の増加、高経年設備の更新、環境意識の高まりなどの変化に直面している。こうした変化の波を技術力や設備投資で乗りこなそうとしているのが現在の浜川崎工場の姿でもある。
◇自然由来ガスで
技術面では、温室効果が二酸化炭素(CO2)の約2万4千倍と高い六フッ化硫黄(SF6)ガスに代えて、自然由来の窒素と酸素を混合した乾燥空気(ドライエア)を使ったGISを明電舎と共同開発。2022年から「AEROXIA(エアロクシア)」シリーズとして展開する。各社がSF6フリーの開閉器の開発に躍起になる中、国内初の納品にこぎ着けた。
エアロクシアシリーズとしては7万2千Vと8万4千VのGISを展開しているが、今後は高電圧帯への対応が課題。吉見彰浩工場長は「SF6のGISは最高定格55万Vのものが使われている。これをどう更新していくかを考えなければならない」と話す。絶縁性能がSF6に劣る自然由来ガスを用いる場合、設備の大型化がネックになる。高電圧帯への対応と設備のコンパクト化を両立させることで競争を制していく考えだ。
東芝の技術は変圧器の分野でも発揮されている。世界で東芝だけが製品化に成功したガス絶縁変圧器はその希少性も相まって、油による火災を嫌う地下変電所向けの引き合いが絶えない。輸送時の厳しい制約を克服するために開発した分解輸送型変圧器(ASA変圧器)は、数年後の納品に向けた足元の受注が好調だ。国内市場を席巻する避雷器は、その性能に直結する酸化亜鉛素子のブレンド技術が強みだ。
◇100億円で増強へ
浜川崎工場の受注状況について、吉見工場長は「東京五輪前と比べると現在は1.5倍程度だ。先々は3倍程度まで膨らむだろう」と明かす。現在の設備では生産が受注に追い付かなくなる恐れもある。東芝は同工場に今後3年間で100億円を投じ、GISと変圧器の製造能力を増強すると決めた。
一方、浜川崎工場には長期的な視点での対応も求められる。既存の送変電設備は使用期間が設計寿命の30年を超えるものも多く、更新需要は強い。40年頃からは既存機器がSF6フリー機器へと全面的に切り替わっていくとの見立てもある。洋上風力の導入が順調に拡大すれば、送変電設備の需要にも効いてくる。押し寄せる変化の波に飲み込まれないためには、さらなるアップデートも問われていると言えそうだ。
電気新聞2024年10月25日
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