政府は電力系統と通信基盤を一体的に整備する「ワット・ビット連携」構想の検討を進める。脱炭素電源とデータセンター(DC)の距離が離れると、送電網を整備するのにコストや時間を要する。この構想は、光ファイバーケーブルが送電線に比べ大幅に安価な点に着目。DCを脱炭素電源の近くに設置し、光ケーブルを伸ばして情報を伝送することで物理的距離の制約を克服する。実現には官民の垣根を越えた連携が求められる。

 ワット・ビット連携は、東京電力パワーグリッド(PG)の岡本浩副社長が首相官邸の有識者会合「GX2040リーダーズパネル」で提唱した。その結果、上位会合のGX実行会議で、GX2040ビジョン策定に向けた検討のたたき台に載った。脱炭素電源や水素などの近傍に産業を集積し、日本全国を俯瞰した効率的で効果的な系統整備を進める。

 東電PGの岡本副社長は電気新聞の取材で「光ケーブルの単価は送電線の100分の1程度で済む」と、構想の肝を解説する。例えばDCの電力需要を賄うための電源を開発する場合、送電線の距離を長くするよりも、光ケーブルを伸ばした方が安価となる。電力広域的運営推進機関が2016年に公表したデータでは、光ケーブルが1キロメートル当たり数百万円に対し、高い電圧の架空送電線は数億円だった。

 光ケーブルは送電線より軽く、早く設置できる。DC事業を早期に始めやすくなる利点がある。送電線の増強を最小限にできれば託送料金の抑制により電気料金の低減にもつながる。

 さらに脱炭素電源の近傍に需要を誘致すれば、水素を得やすくなる。水電解装置でつくった水素を運びやすいためだ。自家発電用のガスタービンなどを水素で発電できる。

 ワット・ビット連携の実現には、一般送配電事業者と通信事業者の協業が求められる。各業界を所管する経済産業省と総務省の連携も必要だ。光ファイバーの敷設状況は電力系統のように地図が公開されておらず、岡本副社長は「まず情報のギャップを埋めるのが課題」と指摘する。

 政府は「多数の企業間連携を前提」に、電力系統と通信基盤の一体開発に向けて「官民連携で検討」する方針を示す。経産省幹部は「総務省と協議を進めている」と話す。

◆メモ

 ワット・ビット連携の言葉は、スタンフォード大学のビット&ワット・イニシアチブから東電PGが着想を得た。メンバーにはE・ONやシェルなどのほか、三菱重工業も名を連ねる。自民党総裁選に立候補した林芳正官房長官が政策集にワット・ビット連携を盛り込んだことでも注目された。

電気新聞2024年9月30日