千葉県長生村にある生産井。地下約1400メートルまで延びる

◆価格安定に貢献、ヨウ素生産も

 地場で生産した天然ガスを活用する地域が千葉県にある。K&Oエナジーグループは千葉県を中心に分布する「南関東ガス田」から天然ガスを採取し、県内の茂原市をはじめとするエリアに安定した価格で都市ガスを販売する。エネルギー価格の上昇が度々クローズアップされる中、古くから続く地産地消ならぬ「千産千消」の取り組みが、注目を集めている。

 千葉県南東部の睦沢町を流れる河川をみると、水面に絶えず気泡が浮かぶ光景を目にする。湧き出るのは南関東ガス田で眠っていた天然ガスだ。

 天然ガスは、太古の海水が地層の中に閉じ込められた「かん水」に溶け込む形で存在する。主に千葉県南東部で天然ガスの採取を手掛けるのは、K&Oエナジーグループ子会社の関東天然瓦斯開発だ。

 ◇地場17万件に

 関東天然瓦斯開発は、地下からかん水をくみ上げる「生産井」を約380本保有する。千葉県長生村にある生産井のパイプに触れると、かん水の流れる「ザーッ」という音と振動が断続的に伝わってくる。生産井1本で1日に生産できるガスの量は、一般家庭が消費する約15年分の量に相当するという。

 かん水はくみ上げられた後、水と天然ガスを分離する「セパレーター」に送られる。採取されたガスは「付臭設備」で特有のにおいを付け、K&Oエナジーグループ子会社の大多喜ガスが都市ガスとして約17万件の家庭に供給する。

 大多喜ガス総務部総務グループの木村和彦マネージャーは、家庭用ガス料金プランの特色として「原料費調整がない」点を挙げる。燃料を輸入に頼る日本は、ロシアによるウクライナ侵攻をはじめとする海外情勢の影響を強く受ける。千葉県産の天然ガスにはそうした心配がない。K&Oエナジーグループはエネルギー安全保障、社会問題となった家庭の光熱費負担の抑制に貢献してきた。

 ◇世界の約5%

 K&Oエナジーグループが注目されるのは天然ガスだけではない。関東天然瓦斯開発がくみ上げるかん水には、海水の約2千倍のヨウ素が溶け込む。K&Oエナジーグループは子会社のK&Oヨウ素でヨウ素製造に取り組んでおり、世界生産量の約5%を握る存在だ。ヨウ素はレントゲンの造影剤に使われるほか、今後はペロブスカイト太陽電池の主原料として需要が伸びることも期待される。

 関東天然瓦斯開発が採掘できる天然ガスの埋蔵量は約1100億立方メートル。現在の年間生産量で計算すると約600年分になる。関東天然瓦斯開発は京葉ガスをはじめとする他の事業者にも天然ガスを販売し、県内のガスの安定供給に貢献している。「千産千消」の恩恵は、今後も長く享受できそうだ。

電気新聞2024年8月21日