◆導入に手厚い補助金/ボイラー規制を強化
脱炭素に欠かせない技術として、国内でも日増しに注目が高まるヒートポンプ。普及拡大に向けた動きで先行する欧州の政策や統計制度について探るとともに、電事連などの調査団が現地関係者との意見交換を通じて得た日本への示唆についても取材した。
◇「環境熱」を利用
ヒートポンプ(HP)は、大気や地中、水など自然界に無尽蔵に存在する「環境熱」という再生可能エネルギーを取り込み、冷暖房や給湯に利用する技術だ。身近な例を挙げれば、空調ではエアコン、給湯ではエコキュートなどで活用されている。
機器稼働に投入するエネルギーを大幅に上回る熱エネルギーを得られるため省エネ性に優れた技術であると同時に、再生可能エネルギーを利用する技術でもある。DR(デマンドレスポンス)資源として活用することも可能だ。これらの脱炭素に貢献する特徴が評価され、普及拡大に向けた声が各所から上がっている。
こうした中、関係者が普及拡大に向けた好事例として注目する地域がある。
それは欧州だ。域内のHP機器の販売台数は近年、急激な増加傾向にある。欧州ヒートポンプ協会(EHPA)の統計によると、主要14カ国における2022年の販売台数は約276万5千台と過去最高を大きく更新。それまで過去最高だった前年に比べ約38%増の驚異的な伸びを記録した。
背景にあるのはEU(欧州連合)の脱炭素政策。欧州は従来、暖房や給湯といった熱需要を石油・ガスを使う燃焼系ボイラーに依存してきた。一方で、近年はこうした従来方式からの転換・脱炭素に向けた「柱」として高い環境性能を持つHPが明確に位置付けられ、導入が政策で後押しされてきた経緯がある。
温室効果ガス(GHG)排出削減目標を引き上げた19年の「欧州グリーンディール」の達成に向けた政策として、EUは「Fit for 55」を策定。同政策に基づいて加盟国に達成を義務付ける再エネや省エネ、建築物のエネルギー性能などの指令改正を進めており、ヒートポンプ機器の導入促進に向けた施策もこの一環として具体化されてきた。
一例が、補助金などインセンティブの拡大だ。HPは一般的に、本体価格など導入時にかかる費用が燃焼式ボイラーの数倍必要とする。そのため、初期費用の高さが普及拡大の障壁となっていた。
この解消に向け、欧州各国ではHPを活用した暖房機器を導入した場合、補助金、税制控除、低利融資プログラムを適用するといった支援措置を実施。既設暖房からの更新と新設の双方でHP機器の導入を支援してきた。
燃焼式に対する環境規制も推進。昨年12月には、21年に示した化石燃料を用いたボイラー式冷暖房を40年までにEU域内で廃止する方針が合意された。全ての新築建物で、ガスや石油を使った暖房を禁止する方針を示している国も複数ある。
インセンティブ拡大や規制強化に加えて、各国の導入目標設定などにより、販売台数はハイペースで増加。21年には前年比約32%増の201万台規模となった。
◇脱ロシアも影響
22年には、ロシアのウクライナ侵攻により導入ペースがさらに加速した。EUはこれを契機にロシア産化石燃料への依存体制から脱却し、エネルギー安全保障の強化を目指す計画「リパワーEU」を策定。HPもロシア産化石燃料に頼らずにエネルギー自給率の向上を図れる手段として、導入を加速させる方針が示された。
具体的には、HP機器の設置率を足元から倍増させる方針を掲げるとともに、今後5年間で新たに累計1千万台を設置する数値目標を設定。各国の導入に向けた動きをさらに加速させ、22年の記録的な販売台数につながった。
電気新聞2024年8月14日