仕事の打ち合わせをする井上さん(右)と中田さん

◆他社設備の運用・保守も視野に

 北海道電力経営企画室内に昨秋「蓄電所開発グループ」が発足した。調整力や供給力になる系統用蓄電所(蓄電池)を自前で設置していくほか、他社蓄電所の運用・保守業務の受託窓口になることも検討。中心メンバーの井上彬副主幹と中田博之主任が事業性を緻密に評価している最中だ。蓄電池は本来、脱炭素化に向けた再生可能エネルギーの導入拡大に寄与するが、需給調整市場での高値登録・落札など諸課題も表面化した。2人は「地域インフラを支える企業として事業規律を順守していく」と語る。(山下友彦)

 広大な北海道は再エネの立地に適している。出力が変動する風力と太陽光の導入量は4月末時点で道内の平均需要と同等の350万キロワットに達した。導入前段階の電力系統接続契約を北海道電力ネットワークに申請した(承諾済みも含む)風力・太陽光は172万キロワットある。出力変動に応じた充放電ができる系統用蓄電所は従来、系統混雑の緩和と再エネの円滑な導入拡大に貢献する役割が期待されてきた。

 北海道電力の社内でも系統用蓄電所事業を始めようという機運が高まり、部室横断の検討チームが2022年11月に発足。当時は総合エネルギー事業部の井上氏、火力部の中田氏ともにチームに加わり、事業計画を固めていく中で23年10月に経営企画室蓄電所開発グループとして組織化された。同グループには他部室との兼務も含め9人が所属しているが、両氏は系統用蓄電所事業を本務とする中核人材だ。

 06年入社の井上氏は再エネの出力予測誤差に対するレドックスフロー電池の充放電性能試験に長く取り組んだ経験があり、蓄電池の知識が豊富。現職では、系統混雑の緩和に役立つ立地場所の精査などに力を注いでいる。「系統用蓄電所は電力事業の中でも最先端のトピック。携われることに純粋な喜びを感じている」と語る。

 11年入社の中田氏は火力部のほか営業部、需給運用部にも所属し、営業部時代は卸電力取引を担当した。発電事業に位置付けられている系統用蓄電所の各市場での取引に、こうしたキャリアを生かせると話す。「蓄電所の設計、ファイナンスや保険、用地取得などありとあらゆることに一気通貫で関われるのが魅力」と新規事業の醍醐味(だいごみ)を味わっている。

 道内では3月末時点で65万キロワットの蓄電池が系統接続契約を申請済みで、全国各エリアと比べても高水準だ。実際に接続されるのは1割程度との見方もあるが、初期段階の接続検討を申請した蓄電池は3月末時点で762万キロワットに上る。蓄電所開発グループにも「一緒に事業をやろう」「需給運用・管理を請け負ってほしい」など、他の事業者から多くの引き合いがきているという。

 北海道電力には需給運用部など、こうした外注を引き受けられる組織もある。蓄電所開発グループリーダーの谷村新氏は、「系統用蓄電所をつくりたい人と運用する人(企業・部門)を結び付けるプラットフォーム的な役割も担っていきたい」と話している。

電気新聞2024年7月4日