水素社会推進法とCCS事業法が可決・成立した参院本会議(17日、国会)

◆支援制度の具体化が急務

 二酸化炭素(CO2)を地下に貯留するCCS(二酸化炭素回収・貯留)について、政府は2030年の事業化を目標に掲げる。その実現に向けてCO2分離・回収や輸送、貯留に関する要素技術の研究開発が進み、国会でもCCS事業法が成立するなど、事業環境は整いつつある。一方で課題になるのはコスト。CCSに取り組もうとする事業者は排出量取引や補助金などで投資予見性を確保する必要があると指摘する。

 CCSは発電所・工場の排ガスや大気中からCO2を分離・回収して、そのCO2をパイプラインや液化CO2輸送船で輸送した後、深さ800~千メートル以深の地下に貯留する技術だ。CO2をためることができる「貯留層」と、CO2の上部移動を防ぐ“ふた”の役割を担う「遮蔽層」を利用し、遮蔽層の下部に存在する貯留層へCO2を圧入する。

 CO2の圧入は、温度約31度、圧力約7.4メガパスカル以上の「超臨界」状態で行う。この状態のCO2は液体のような高い密度と、気体のような高拡散性を兼ね備え、貯留層に効率良く圧入できるとされる。

 日本では日本CCS調査(東京都千代田区、中島俊朗社長)が北海道苫小牧市で大規模CCS実証試験に取り組み、16~19年に累計約30万トンを圧入した実績がある。18年には貯留地点から約31キロメートル離れた場所を震源に北海道胆振東部地震が発生したものの、CCSが地震の原因ではないことを検証し、CO2の漏えいがなかったことも確認した。

 ◇事業者に権利を

 今月17日には参議院本会議でCCS事業法が可決・成立した。同法案では、事業者に試掘や貯留の権利を与える許可制度を創設。貯留事業・導管輸送事業についての事業規制・保安規制も整備する。

 審議の過程で、衆議院経済産業委員会の参考人質疑に出席した松岡俊文・深田地質研究所顧問は「日本でもCCS事業を十分にできる」と強調。高いレベルのエンジニアリング技術や造船技術を保有し、石油産業の技術者も一定数いることを理由に挙げ、「我が国の石油産業が世界に比べて小さいからCCS産業が国内で育たないと思うのは間違いだ」と述べた。

 ◇手続きが明確化

 産業界はCCS事業法成立をプラスに受け止める。JX石油開発の山田哲郎副社長は「許認可手続きや責任範囲が明確になる」と評価。地元関係者へ安全対策や損害賠償の仕組みを客観的に説明できると期待される。

 今後は支援制度の具体化・拡充が求められる。CCS事業自体は利益を生まず、市場原理だけでは導入が難しい。

 日本では26年度から排出量取引制度が本格化する予定で、CO2を圧入した分の収益を一定程度確保できると見込まれる。しかし、住友商事の高橋淳也・CCUS・地下エネルギー事業ユニット事業戦略・統括チーム・チーム長は、「2030年時点ではコストをかけてCCSを導入するよりも排出権を購入した方が安くなりそうだ」と指摘。ただ、CCSはCO2を直接的に削減できる社会的意義があるため、「補助金などでCCSに取り組むインセンティブを生み出す必要がある」と話す。

 経済産業省は50年までに、CO2を年1億2000万~2億4000万トン(現在の排出量の約1~2割に相当)貯留する計画を掲げる。CCSはエネルギーの安定供給と気候変動対策の両立につながるほか、CO2排出削減が困難な産業にとって「最後の砦(とりで)」となる。要素技術となる「分離・回収」「輸送」「貯留」の研究開発や実証試験の動向などを5回に分けて連載する。

電気新聞2024年5月21日