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 電気事業法の規定に基づいた電力システム改革の検証が行われている。審議会の様子を側聞するに、現在のシステムが安定供給面で課題を抱えているという認識はほぼ共有されていると思えるが、それだけでなく、世界各国で進められてきた電力システム改革の競争モデルがここへ来て限界を顕在化させており、再考の時期にあることも共有されるべきである。

 1990年代以降、世界各国で行われた電力システム改革は、それまで規模の経済性等を根拠に長らく採用されてきた法的独占体制を見直し、送配電網を共通のインフラとして開放することによって、発電・卸売と小売の分野に新規参入を解禁、競争を導入するというモデルであった。発電分野の規模の経済性が消滅したことを前提に、多数のプレーヤーが活発に競争する競争的な市場を目指し、その市場が発する価格シグナルを通じて、既存の発電設備を最適に運用できる(運用の最適化)とともに、新規の発電設備への投資に向けた効率的なインセンティブが生まれる(投資の最適化)と想定されていた。

 後者を端的に言えば「新規投資が必要な状況になれば、卸電力市場価格が高騰し、その価格シグナルによって新規参入が促される」というものである。しかし現実には卸電力市場は不完全であり、その価格シグナルに依存するだけでは電源投資は過小となる。この点の可能性を指摘する論文は1990年代後半からみられた。米国ではその不完全性を補う仕組みとして、容量メカニズムの導入例が早くから登場していた一方、、欧州は総じて過剰設備の貯金を抱えた状態で改革を行ったため、しばらく問題に直面することがなく、容量メカニズムの議論は比較的新しい。

 この「卸電力市場の価格シグナルによる電源投資の最適化を期待するモデル(古い競争モデル)」の限界は、資本集約的な大規模投資を必要とする脱炭素化政策と安定供給の両立が求められる今後、さらに顕著になる。こうした指摘は、電力経済分野のビッグネームであるMITのジョスコウ教授など、複数の識者からなされており、彼らは対案としてハイブリッド市場という概念を提唱している。

Competition for the market と Competition in the market

 ハイブリッド市場とは、発電事業の長期的な投資決定を短期的な運用から切り離す概念であり、(1)Competition for the market(市場に参加するための競争):国などが必要と判断した量の電源を長期契約を通じて確保するための競争入札、(2)Competition in the market(市場における競争):Competition for the marketで確保した電源を最適運用する短期の卸電力市場での競争――2段階の競争から成る。

 すなわち、短期の市場であるCompetition in the marketから得られる収入だけでは、必要な投資を確保するには不安定かつ不足なため、前段階のCompetition for the marketにおいて、国などが必要と判断した量の電源を確実に確保する。