◆電圧安定、増すニーズ
無効電力出力を瞬時に制御し、系統電圧の安定化に貢献するSTATCOM(自励式静止型無効電力補償装置)が、再生可能エネルギー受け入れ拡大などの観点からあらためて脚光を浴びている。好調な受注を反映し、電機メーカーも生産体制整備に動き始めた。系統安定化のために使われ始めた1990年代の黎明(れいめい)期以来、ブームが再燃したSTATCOMの動向を追った。
「東北の北部系統を安定化すれば(東北地域で)最大需要地の仙台市まで落ち着かせられる」。そう話すのは、23年3月に東北電力ネットワークからSTATCOMの受注を発表した東芝エネルギーシステムズ(東芝ESS)の佐藤純正・送変電ソリューション技師長だ。東芝ESSの発表と同じ日に、三菱電機も東北NWからSTATCOMの受注を発表した。
◇初の50万V
東芝ESSは上北変電所(青森県七戸町)にプラスマイナス80万kVA、三菱電機は岩手変電所(盛岡市)にプラスマイナス70万kVAの装置を納める。運転開始はどちらも31年末の予定だ。
上北変電所と岩手変電所は総延長114キロメートルの50万V十和田幹線でつながる。東北電力エリアの基幹系統に世界最大級のSTATCOMを2台(計プラスマイナス150万kVA)を設置し、東北北部の電圧変動を押さえ込む。
東芝ESSにとって電力系統用STATCOMの実績は7件目だが、50万Vの基幹系統向けは今回が初めて。佐藤技師長は「黎明期の90年代に案件が集中したが、系統設備が成熟した00~15年頃は完全な空白期間だった」と振り返る。
STATCOMはパワーエレクトロニクス技術で無効電力を瞬時制御することにより、安定供給に欠かせない系統電圧の安定化、同期化力の改善に貢献する。
歴史をさかのぼると、91年に世界で初めて電力系統用のSTATCOMを関西電力犬山開閉所(愛知県犬山市)に納めたのが、三菱電機だった。木曽川水系の水力発電所の電力を需要地に送る系統の安定化を目的とし、電圧制御によって送電線を新設せずに送電量を増大させる役割を果たした。
その後、全国的に基幹系統増強が進んだことなどから、いったんは受注が下火になったSTATCOMが再び注目されるようになったきっかけは再エネの拡大だ。出力が変動する上、同期化力も持たない太陽光、風力の拡大に対応した系統増強ニーズが高まる中、再び時計の針が動き出した。
◇体制整備へ
その三菱電機はいま、同業他社から「一番勢いがある」と評される。東北NW案件を発表した2カ月後、三菱電機は台湾初となるSTATCOMの受注を発表した。納入予定は25年上期に迫る。三菱電機の漆間啓社長は23年末に電気新聞の取材で、「STATCOMは本当に強化しないといけない。(連続受注で)手いっぱいになってしまったので、エンジニアリングを増やしたい」と体制整備を明言した。
他社の動きも活発だ。日立エナジーはABB時代を含め、世界で120台以上の導入実績を誇る。再エネ普及が進む欧州で積み上げた。生産体制を整備しており、23年2月にインド・チェンナイで、HVDC(高圧直流送電)やSTATCOMといった送変電関連の工場を開設した。
日本市場では日立製作所として北陸電力に納めた2台のみだが、23年に日立エナジーとして初のSTATCOMを太陽光発電所向けに納め、歴史に新たな1ページを刻んだ。太陽光の力率を調整する。日立エナジージャパンの中尾紀芳社長は「電力会社や一般産業からも問い合わせが増えている」と明かし、電力系統案件も虎視眈々(たんたん)と狙う。
電気新聞2024年4月18日
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