◆国産ホタテ…生産、加工、小売をつなぐ/県産品…リピーターの存在が力

 東京電力福島第一原子力発電所の多核種除去設備(ALPS)処理水放出を理由に、中国政府が一方的な日本産水産物の禁輸措置を続けている。とりわけ影響が大きいのは、それまで年間約10万トンを輸出していた国産ホタテだ。東京電力ホールディングス(HD)は少しでも影響を緩和しようと、国産ホタテの流通促進に力を入れている。

 ◇都内で「祭り」

 東電HDは処理水放出を控えた2023年8月23日、福島復興本社ふくしま流通促進室にALPS処理水影響対策チームを設置。情報発信、流通促進、賠償に一元的に対応できる体制を整えた。

 ふくしま流通促進室の山田真一室長は当時副室長を務めており、「ALPS処理水放出のタイミングでどういうふうに世の中の事業者や消費者が反応するか、私を含めて全くの手探り状態で、緊張感をもってやっていた」と当時の状況を説明する。

 幸い、ALPS処理水放出に伴う買い控えなどは、現時点で顕在化していない。問題となっているのは、中国政府が政治的な思惑で仕掛けたとされる禁輸措置だ。

 東電HDはこれを受け、23年9月に国産ホタテをメインに据えた社内販売会を開催。10月にはJR御徒町駅前で一般向けの「ホタテ祭り」も開催した。

 ふくしま流通促進室の山崎正宏次長・広域流通促進担当は、ホタテ対応で中心的な役割を担った一人だ。

 山崎次長は22年7月に今の担当に就き、北海道や青森県、宮城県などで対応してきた。「もともと水産品の流通促進が対象で、ホタテも想定の範囲内だった。だが、中国に輸出されていた10万トンが行き場を失うとさすがに影響は大きい。販売促進に取り組まないといけないとの思いを強くした」と振り返る。

 苦労したのは、日本で出回っているホタテと中国に輸出されるホタテの違いだ。中国に輸出されていたのは、ほとんどが殻が付いた「両貝」の冷凍品。一方、日本国内は貝柱のみに加工した「玉冷」やボイルしたものが主流で、そのままでは流通させられない。

 そのため、両貝の状態で扱ってもらえるよう小売店や飲食店に頼み込むとともに、玉冷に加工ができないか水産加工会社に相談をして回ったという。加工をするには工場を一つ新設する必要もあり、山崎次長は「なかなか簡単ではない」と苦しい胸の内を明かす。

 ◇理由どうあれ

 そもそも中国政府の禁輸に科学的・合理的な根拠はない。だが、山崎次長は「理由が何であれ、解消していかないといけない」と力を込める。禁輸措置の解除は見通せないが、「一過性のものにしてはいけない。生産者と水産加工会社、小売りをマッチングでつなげるようお手伝いをしていきたい」と語る。

 ホタテの流通促進に向けた取り組みは拡大している。8日に東電グループ関係者向けEC(電子商取引)サイト「発見! うまいもの隊」を開設し、ホタテなどの販売を開始。今後は西日本でのフェア開催などにも力を入れていく。

 ホタテに関心が集まる一方、山田室長は「福島県に向けた取り組みが薄まっていると受け止められないように意識していきたい」とも話す。

 ふくしま流通促進室の設置は18年2月。失われた福島県産品の販路回復と取扱量の増加などを目指し、小売店や飲食店における販売促進フェアといった活動を展開してきた。

 その過程でコメ、牛肉、モモ、水産品と段階的に取扱品目を拡大し、活動エリアも首都圏や福島県内から、全国、海外へと広げている。

 福島県産品調達にはリピーターもつくようになった。山田室長は「いつも応援しています、毎回フェアを心待ちにしていた、などありがたい言葉をたくさん頂いている。背中を押される思いだ」と心情を吐露する。

 依然として福島県産水産物の水揚げ量は東日本大震災前の25%までしか戻っていない。

 山田室長は「福島県産品とホタテの流通促進にバランスよく、相乗効果を得られるように組み合わせて取り組んでいく。回数をしゃかりきに増やしていくというよりも、地元の方の顔が見えるような形で活動の質を上げていきたい」と語った。

電気新聞2024年3月11日