実証に用いられている鳥類探知レーダー(環境省提供)

◆レーダーで飛翔経路捕捉

 洋上風力発電の導入拡大に伴い、風車のブレードに鳥が衝突する「バードストライク」の発生が懸念されている。環境省は、鳥の動きを広範囲に追跡し、3次元(3D)画像で飛翔データを収集できる鳥類探知レーダーの有効性を確認する実証事業を始めた。現在用いられているレーダーに比べ、探知可能な面積は10倍以上に拡大。洋上風力の「有望な区域」に国が位置付ける千葉県いすみ市沖で1年かけて実証を進める。

 実証に用いるレーダーは、1羽1羽の飛んでいる位置や速度、高さ、体の大きさをリアルタイムでデータ取得し、飛翔経路を詳細に3Dで視覚化できる。洋上風力導入に当たって、事業者が行う環境影響評価(環境アセスメント)に使う一般的なレーダーの探知範囲は半径1~3キロメートルだが、実証機は半径約10キロメートルをカバー。調査できる面積は10倍以上に広がる。

 ◇高さ決める要素

 昨年11月にスタートした調査は、10月まで毎日、昼夜を問わず24時間行う。いすみ市沖でどんな鳥がどの時季にどう飛んでいるか、データを収集する。

 環境省環境影響評価課は「調査手法を確立して、バードストライクのリスクが高いエリアはどこかを明らかにできるようになることを期待している」と説明。「鳥の飛翔高度を把握できれば、海面から風車のブレードまでの高さを、バードストライクが低減できるように設定するなど、対策の立案につなげられる」と意義を話す。

 実証するレーダーを開発したオランダのロビン・レーダー・システムズのホームページでは、活用事例を掲載。春と秋に数百万羽が渡る地域の風力発電所で、バードストライク減少の研究に役立てるオランダの例や、絶滅危惧種の飛翔を把握した場合、風力タービンを自動停止させる目的で導入したフィンランドの洋上風力を取り上げている。

 ◇難しい目視調査

 洋上風力で30年にわたる歴史を持つ欧州に比べ、日本は導入の黎明期にあり、海の自然環境にどんな影響を与えるか明らかになっていない。データを集めるにも、海の調査は陸上に比べ難しい。調査地点への移動手段が船舶に限られる上、望遠鏡を固定し目視で鳥の動きを追える陸上と異なって、波に揺れる船上では困難を伴う。

 いすみ市沖は、国が指定する洋上風力の促進区域の候補である「有望な区域」に位置付けられている。実証事業は2024年度までを計画し、事業費は、データ解析やレーダー設置の許認可を含め、約5億~6億円を想定する。

 国は20年にまとめた洋上風力産業ビジョンで、洋上風力の促進区域を毎年100万キロワット程度ずつ10年間指定し、30年までに1千万キロワットとする目標を掲げる。

電気新聞2024年2月14日