ジェットタオルを製造している様子

  ◇「日常の象徴」に

 「いつもの音が戻ってきたら、いつもの毎日にまた近づいたって言えるかもしれない。」

 三菱電機中津川製作所(橋口正哉所長)が生産するハンドドライヤー「ジェットタオル」が、2023年に発売30周年を迎えたことを記念して作られた映像の一節だ。コロナ禍において、感染リスクを高める要因にはなり得ないとされたものの、予防対策の観点から多くの施設で使用停止となった。映像ではジェットタオルの稼働音が、新型コロナウイルスに伴う制限緩和後の日常の象徴として扱われている。

 中津川製作所のある岐阜県中津川市は中央アルプス南端、恵那山のふもとに位置する。名産品の栗を使った「栗きんとん」は中津川が発祥の地とされる。ゆでた栗に砂糖や塩を加えて鍋で練り、布巾でしぼる一口サイズの和菓子で、ほくほくした食感と、自然な甘さが楽しめる。

 中津川製作所は、換気扇や送風機事業の成功から「風の中津川」とも呼ばれる。1943年に中津川工場を立ち上げて扇風機の生産をスタート。風を生み出す技術は空気をコントロールする全熱交換形換気扇や、冷温水システムのような水を利用する商品群へと発展し、93年のジェットタオル発売につながった。同社製品は海外で普及していた「温風式」ではなく、水滴を風で吹き飛ばす「ジェット風式」を採用。側面から手を入れられる構造とし、手全体をしっかり乾かせるようにした。

 当初はパチンコ店で導入が拡大した。その後も工場や商業施設、小売店、飲食店などで採用を広げたが、コロナ禍では苦境を味わった。とりわけ、業界団体が専門家らの知見に基づき策定した業種別ガイドラインが、20年5月にハンドドライヤーの使用停止を打ち出した影響は大きかった。

 ◇正しい情報発信

 ◇コロナ受け衛生強化モデルも発売

 これを受け、三菱電機は正しい情報を発信するために様々な取り組みを展開。機器の定期清掃により使用可能となった後も、羽田空港への導入などでイメージ改善につなげた。21年6月には衛生強化モデルを発売。ウイルスや菌を抑制し、水滴飛散を抑える仕組みも取り入れた。

 23年5月に新型コロナが5類に移行しガイドラインが廃止されたことで、ハンドドライヤーの稼働再開は加速。コロナ禍の影響を受けた期間の販売は19年度比2割程度まで落ち込んだが、23年度は約7割まで回復する見込みだ。

 公共トイレへのハンドドライヤー設置率は2割程度にとどまり、同社は今後導入を推進する。橋口所長は1月18日に開いた工場視察会で、「効果と品質の良さから高い評価を得ている。幅広い業界のニーズに応え、これからも邁(まい)進したい」と意気込みを語った。(随時掲載します)

◇取材後記

 中津川製作所のショールームには、ジェットタオルがより低コストなことをPRする展示がある。1日400回使用する場合、ペーパータオルと比較すると1カ月当たりの差額は約2万円になるという。

 ジェットタオルは両脇から手を入れて上にゆっくり引き出すのが正しい使い方。記者はこれまで、上から適当に手を突っ込み、乾かしていた。実践すると確かに、これまでよりしっかり手が乾く感覚を実感できた。(中部総局・林史子)

電気新聞2024年2月15日