KAGRAで収集したデータが集まる研究棟。三代木准教授の研究拠点だ
KAGRAで収集したデータが集まる研究棟。三代木准教授の研究拠点だ

 大型低温重力波望遠鏡「KAGRA」で検出を目指す重力波の理論は、約100年前にアインシュタイン博士が初めて提唱した。当時は重力波が微弱なため実際に観測するのは「不可能ではないか」とも言われていた。「アインシュタインが残した最後の宿題」とも表現される重力波。その観測研究は米国で1960年代に開始。その後は欧州でも取り組みが始まった。

KAGRAのロゴマーク
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 重力波の観測を先進国が進めているのは、宇宙で爆発が起こった位置や質量などを把握できるからだ。重力波の波形を詳細に分析すれば超新星爆発やブラックホール同士の衝突事例なども検出できるといわれている。

 ただ宇宙には1千億個を超える銀河がある。一つの銀河で超新星爆発が発生するのは100年に一度しかないという。東京大学宇宙線研究所の三代木伸二准教授は、こうした環境で重力波をより多く観測するには「観測精度をいかに高めるかに尽きる」と言い切る。

 研究が進んだ79年には重力波の存在が証明され、2015年3月に米国の重力波望遠鏡「LIGO(ライゴ)」が世界で初めて観測に成功した。ライゴは3千キロメートル離れた2台の望遠鏡で構成。2台がほぼ同じ重力波と思われる波形の信号を検出したのだ。

 周囲の雑音との相関関係がなく、波形から読み取れる質量がブラックホールの合体で発する重力波のシミュレーションとほぼ一致していたため、検出した信号が重力波で間違いないと判定された。この成果を受けて17年にライゴの研究グループはノーベル物理学賞を受賞した。

 ライゴがノーベル賞に選ばれたことについて、三代木准教授は「こんなに早く検出できると思っていなかった」と驚いた。当時はまだ、日本でKAGRAの機器据え付けを行っている最中だったからだ。

 ノーベル賞を受賞したとはいえ、重力波に関する研究領域は未知の部分が多い。素粒子の一つ、ニュートリノに関する研究が2度受賞したことがあるように、重力波関連でも再びノーベル賞を受賞する可能性はまだある。

 選ばれるために三代木准教授が狙うのは、超新星爆発による重力波の観測だ。前述したライゴは、超新星爆発よりもはるかに波が強いブラックホールの合体による重力波を観測した。超新星爆発はブラックホールよりも波が弱く、計測が困難なだけに「観測できれば十分ノーベル賞に値する」と期待を込める。

 賞レースも重要だが、国際的な観測態勢を確立するためにもKAGRAの位置付けは重要だ。重力波を1地点で捕まえても、重力波の発生源と地球との距離しか分からない。ブラックホールなどの位置を把握するためには、地球上の3地点で観測する必要があるからだ。衛星利用測位システム(GPS)受信機が3基の衛星から電波をやり取りすることで正確な位置を把握できる理論と同じだ。

 KAGRAはライゴに加えて、フランスやイタリアなどが協力する重力波望遠鏡「VIRGO(ヴァーゴ)」とも連携する。三代木准教授は3地点が協力することで、「時々刻々と変化する重力波を緻密に観測できる。重力波を発生させた天体で何が起こっているのか正確に分かるはず」と熱を込める。

 緻密に観測するためには観測感度を常に向上させることが課題となる。検知の目標については「年に数回を目指しているが、将来は月に1回程度は観測したい」と語る。

 現在は運転開始に向けた作業の終盤。各種設備の据え付けが終わり、観測に向けた調整が完了すれば19年中に運転を開始できる。三代木准教授らの研究チームは「早く観測したい」とはやる気持ちを抑えつつ、待望の重力波観測の瞬間を見据えながら一丸となって準備を進めている。

 

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