2024年春闘の方針について会見する神保中央執行委員長(右)

◆労務費の価格転嫁が鍵に

 人的資本経営の潮流が強まり、物価高や人材不足といった課題も浮上する中、賃金や働き方を労使で話し合う春闘の行方が大きな注目を集めている。電機メーカー各社の労働組合で構成される電機連合は25日、都内で中央委員会を開催し、2024年春闘で基本賃金のベースアップ(ベア)を月1万3千円以上要求する方針を決定した。物価上昇を上回る実質賃金の向上を目指す。25日の記者説明会で、神保政史中央執行委員長は「賃金水準を上げなければ優秀な人材を確保できず、国際競争力を失う」と危機感を示した。実現に向けて、労務費の適正な価格転嫁を交渉で訴えていく。

 ◇98年以降最大額

 1万3千円による賃上げ率は4%としており、社会全体で30年ぶりの高い伸び率だった23年要求の月7千円を上回る。電機連合の要求が現行方式となった1998年以降で最大の要求額だ。電機連合のベア要求は11年連続。定期昇給(定昇)として要求する7千円を合わせると2万円以上の賃上げになる。25日の記者説明会で、神保中央執行委員長は「しっかりとした水準を示すことが社会の相場形成の一助となる。牽引役になりたい」と力を込めた。

 23年は電機連合加盟の各労働組合で満額回答が相次いだが、生活水準は道半ばとの認識だ。物価上昇に賃金改善が追いついていないことが背景にある。

 厚生労働省の毎月勤労統計調査によると、実質賃金は20カ月連続で前年を下回った。電機連合の組合員調査でも、23年に賃金が上がったとする回答比率が前年比6ポイント増えた一方、生活水準の維持に賃金が不十分とする回答も6ポイント増えた。

 日本の賃金は経済協力開発機構(OECD)加盟国の平均値より低く、38カ国中25位と低位に沈む。OECD平均は20年間、緩やかに上昇したのに対し、日本はほぼ横ばい。人材獲得という観点で、国際競争力が危ぶまれる状況だ。

 交渉戦術として、賃金改善の原資を価格転嫁で生み出すよう訴える。内閣官房と公正取引委員会は23年、「労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針」を公表した。公取の調査ではコスト別の転嫁率で原材料価格(80%)やエネルギーコスト(50%)に比べ労務費(30%)は低く、労務費の価格転嫁が進んでいない実態が明らかになった。物価上昇が落ち着けば賃金上昇も同時に止まる懸念が指摘される。

 労務費の価格転嫁を巡り、中央委員会に来賓として招かれた国民民主党の玉木雄一郎代表は「賃上げが物価上昇を生み出す逆方向のメカニズムをつくれるかどうか、大事な局面だ」と今春闘を占った。電機連合は、積極的な人への投資によって実質賃金を向上できれば、経済の好循環が生まれるとの主張を示す。

 ◇中小にも波及を

 ベアが中小企業に波及するかも鍵を握る。パナソニックや日立製作所など電機連合の大手12社業績は23年度見通しで、営業利益が前年度比8.8%増、営業利益率も0.6ポイント増と好調。ベアの原資を生み出しやすい状況といえる。

 一方、上場する加盟組合企業では減収減益が見込まれるという。電機連合の中澤清孝書記長は「賃金改善を大手だけでなく、中堅・中小企業まで広げることが重要だ」と指摘した。公取の価格転嫁指針を周知する考えも示した。

 電機連合の統一要求方針を受け、各社で春闘が本格化していく。電機連合は働き方に関する論点も議論する方針。育児・介護や、障害者を家族に持つ組合員など個別事情を踏まえた対応を求めていく。

電気新聞2024年1月29日