◇「究極の循環経済」実証に着手/逆境に強いエネ基盤築く

 第3回では、東京電力パワーグリッドでの概念実証によりビットコイン・マイニングの分散エネルギーリソース(DER)としての有効性が確認されたこと、およびアジャイルエナジーXの設立に至った経緯について紹介した。最終回では、アジャイルエナジーXが、再生可能エネルギー(再エネ)導入促進、系統混雑緩和、脱炭素まちづくりの観点から取り組んでいる案件について紹介するとともに、「GX×DX×金融×α(農業、鉱業など)」の掛け合わせによる将来展望について述べる。

 アジャイルエナジーXは、関東エリアの2地点に遠隔制御可能で小規模なコンテナ型ビットコイン・マイニング施設を設置し、事業モデルの技術的成立性確認を開始している。

 1地点目は、系統混雑により連系まで数年待ちの再エネ発電所敷地内にマイニング施設を設置して直接受電することで自家消費し、ビットコインと環境価値を創出するモデルである。2地点目は、系統混雑エリアの配電線からマイニング施設に受電し、再エネによる逆潮流が大きい時間帯に施設を稼働させ負荷を生み出すことで、混雑緩和に貢献するとともにビットコインも得るモデルである。

 いずれも、柔軟なDERとして社会課題解決に資するソリューションとなり得ることを示す実データが蓄積されつつある。


 また、今年7月に埼玉県美里町様とアジャイルエナジーXとの間で締結した、カーボンニュートラルの実現に向けたパートナーシップに基づき、「究極の循環経済」と称するプロジェクトを進めている=図。これは【再エネ×ビットコイン・マイニング×直接空気回収(DAC)×溶融塩電解炭素合成×アクアポニックス】を組み合わせた画期的なソリューションで、以下の要素で構成される。

 (1)再エネ電力でマイニング装置を稼働させ、ビットコインを獲得(2)DACの二酸化炭素(CO2)回収プロセスで必要となる熱源として、マイニング装置からの排熱を利用(3)回収したCO2を溶融塩電解装置に投入し、再エネ電力で電解することで炭素(グラファイトまたは電極等の工夫によりダイヤモンド合成の可能も)を析出・固定(4)再エネ電力でアクアポニックス(陸上養殖と水耕栽培を組み合わせた次世代循環型農業)を稼働させ、冬季はビットコイン・マイニングの排熱を暖房として用いるとともに、DACで回収したCO2で野菜の育成を促進(5)養殖する魚には、食品残さのコンポスト化で活躍する昆虫の幼虫をエサとして投入することで、サステナブルな食物連鎖が完成――。

 前記要素技術はいずれも、単体では成立するものの事業性の確立に課題がある。一方、装置の設置・運用の自由度が高いことから、電気と空気と水と通信回線さえあれば、日本全国どこでも実装でき、再エネ電力から、ビットコイン、カーボンネガティブ、機能性カーボン、さらに環境にやさしい食料という高い付加価値を生み出せる。2024年初め目途で、小規模なデモンストレーション設備を構築中である。

 アジャイルエナジーXは、俊敏・柔軟・果敢(Agile)に、エネルギー産業(Energy)の変革(Transformation=X)を、強力に推進するという決意に基づき、様々な技術を組み合わせて社会課題を解決する、ソリューション・インテグレーターを目指している。

 ビットコイン・マイニングを主軸として、時間的・空間的に柔軟に電力需要を創出可能でかつスケーラブルなソリューションを組み合わせることで、高いリアルオプション価値を生み出していく。

 そして、ワクワクするような革新的な取り組みを通じて、豊かで快適な暮らしを可能とする、アンチ・フラジャイルな(逆境で強くなる)エネルギー基盤を日本に構築し、さらにその先の未来にある”Perfect Energy World”の創造を目指す所存である。


 日本を活性化させたいという当社ビジョンに共感いただけるみなさまと是非連携いたしたく、当社HP=2次元バーコード参照=よりご一報いただけると幸甚である。(この項おわり)

◆用語解説

 ◆直接空気回収(Direct Air Capture=DAC) 大気から直接CO2を回収し、ネガティブエミッションを実現する技術。

 ◆リアルオプション 金融工学のオプション理論用いて、将来の不確実性も考慮して事業価値を評価する手法。拡大・縮小・継続・中止等に関して高い柔軟性を有する事業であるほど、リアルオプション価値が高まる。

 ◆アンチ・フラジャイル ニューヨーク大学のナシム・タレブ教授が同名の著書で提唱した概念。多くの物理的・社会的システムは、不確実性が顕在化したときに壊れやすいフラジャイル(脆弱)な特性を有しているが、不確実性の顕在化により一層強靭になるシステム特性を、アンチ・フラジャイル(反脆弱)と称する。

電気新聞2023年12月11日