関西電力送配電などが出資する金融セキュリティースタートアップのカウリス(東京都千代田区、島津敦好社長)は、電力設備情報を活用した既存口座の悪用防止サービス提供に乗り出す。これまで金融機関向けに電力設備情報を用い、口座の新規開設時に申込者の実在性を精度高く判定するサービスを提供している。ただ、開設後の口座が名義人とひも付いているかを金融機関が継続的に確認する手段は限られていた。12月の電気事業法施行規則改正を受け2024年1月から実証を開始。同年半ばにも正式提供したい考えだ。

 架空名義や名義人とひも付いていない金融口座は、特殊詐欺の受け皿口座などとして悪用のおそれがある。金融機関は対策を進めるが、政府間機関「マネーロンダリングに関する金融活動作業部会(FATF)」は19年に日本を監査し事実上の不合格と判定するなど、国際的に取り組みが遅れた状況にある。

 不正口座開設には空き家の住所が使われることが多い。カウリスは口座開設申込時の記入住所と電力使用状況を照合し、申込者の実在性を判定するサービスを20年から展開。多くの銀行やクレジットカード会社の不正口座開設の未然防止に役立てられる。

 一方、既存口座は引っ越し時に住所変更を怠ったなど悪意のないケースも多く、継続的に名義人とひも付くかを金融機関側が確認するのは難しかった。カウリスは既存サービスと同様の手法で、新たに空き家となった口座の住戸を検知するサービスの提供を目指す。「名義人が銀行に来店したり、ネットバンキングにログインした時に登録住所変更を促す」といった応用が考えられるという。

 新サービスを可能にしたのは、電力設備情報の提供条件を規定する電事法施行規則の改正。空き家対策特別措置法、犯罪収益移転防止法の趣旨に資するのが条件に加えられた。

 カウリスは金融機関2社との実証を経て正式サービスを開始し、対応エリアを拡充する。島津社長は「FATFは日本について口座開設後の顧客情報更新の不備を指摘している。新サービスにより、日本は安全になったとの国際的な認識を得られるはずだ」とし、電力会社との協業深化に意欲を示す。

電気新聞2023年12月22日