◇マイニングで柔軟に負荷を調整/周波数変動へ迅速対応

 第1回では、再生可能エネルギーの大量導入を進める上での課題である、出力制御と系統混雑を緩和する手段として、時間および空間を選ばずに柔軟に電力需要を創出可能なビットコイン・マイニングの可能性について示した。今回は、ビットコイン・マイニングがDERフレキシビリティーとして有効な技術である理由や、再エネを用いたビットコイン・マイニングの海外での実例について紹介する。

 ◇有効なDER提供

 ビットコイン・マイニング事業は、暗号学的ハッシュ関数を高速に実行可能なASICチップを搭載したコンピューターを多数稼働させて行われる。このとき、プルーフ・オブ・ワークというアルゴリズムに基づき、インターネット上で自律分散的に稼働しているビットコイン・ネットワークからマイニング事業者に対して、ビットコインが報酬として新たに発行される。顧客が存在しない特異な事業形態であるため、マイニング事業者はコンピューターの稼働・停止を自由に制御可能であり、需要創出の柔軟性が極めて高いという特長がある。さらには、大容量・低遅延の通信回線が不要であることや、空調設備等の付帯設備は簡素なものしか必要としないなど、設置の柔軟性も高いというメリットも有する。このため、再エネが大量に連系された電力系統に対して、極めて有効なDERフレキシビリティーを提供することが可能である。

 主要メディアでは、「ビットコインには本質的な価値がない」「ビットコイン・マイニングは膨大な電力の無駄遣いであり環境破壊につながる」という論調が散見されるが、正確ではない。

テキサス州の風力発電所に隣接した100MWのビットコイン・マイニング施設(出典:Soluna社)

 ◇電力が価値裏付け

 早稲田大学の岩村充名誉教授は著書「中央銀行が終わる日」で、「ビットコインはマイニングという作業に膨大な電気代がかかる、そのことによって貴重なものになり結果として価値が生じている、要するにプルーフ・オブ・ワークが価値を生む」と、本質を突いた論考を展開している。換言すれば、「ビットコインの価値の裏付けは電力」という画期的な洞察である。近年、この認識に至った欧米の一流大学の基金を含む機関投資家がビットコインを正当な資産としてポートフォリオに組み込む動きが加速しており、もはやビットコインは一部マニア向けの投機的な資産ではなくなっている。

 米国では、複数のベンチャー企業が、テキサス州西部のように再エネ資源が豊富で、卸電力価格が低い地域において、ビットコイン・マイニング事業を大規模に展開している=図1。さらに、テキサス州の電力系統運用機関ERCOTのトップは、2022年のインタビューで、次のように述べている。「マイニング装置は、柔軟に負荷を調整できるため余剰風力の活用に有効であり、より多くの再エネ導入を可能にする。またマイニング装置は、発電機脱落等の周波数変動時に迅速に対応可能なことから、効率的な系統安定性維持にも資する」。

 再エネ導入最大化と系統最適化を図るためのソリューションとして、ビットコイン・マイニングが適用可能であることを実証するため、筆者は2020年に東京電力パワーグリッドでプロジェクトを立ち上げ、電力(MW)をデジタル価値(ハッシュ値)に直接変換する構想として、MegaWatt To MegaHash(MW2MH)と命名した=図2。次回は、MW2MHプロジェクトで実施したPoC(概念実証)およびアジャイルエナジーX社の設立について紹介する。

◆用語解説

 ◆暗号学的ハッシュ関数 ビットコイン・マイニングでは、SHA―256(Secure Hash Algorithm 256 bit)を用いて、取引データの改ざんを防止している。

 ◆ASIC ビットコイン・マイニングでは、SHA―256の実行に特化した特定用途集積回路(Application Specific Integrated Circuit)が用いられる。

 ◆ERCOT テキサス電力信頼性協議会(Electric Reliability Council of Texas)。

電気新聞2023年11月27日