岩尾 徹教授
岩尾 徹教授

 プラズマ科学者、テレビ番組の科学監修者、講義の鉄人――。多彩な顔を持つ東京都市大学の岩尾徹教授は、「なぜ?」という疑問を大切にする。「『なぜ?』を3回ほど繰り返すと、本質が見えてくる」からだ。

 今はネットに情報があふれ、答えはすぐ見つけることができるが、「それでは何の意味もない。間違っても、時間がかかってもいいから、まず自分で確かめてみることが大切だ」と指摘する。

 その言葉通り、大電流エネルギー研究室には“手作り感”のある実験装置がいくつも並ぶ。「本質」を追究するのに既存の製品では物足りず、学生たちが自作したものだ。子どもたち相手の科学実験教室でも、簡単にタネは教えない。
 
ドラマ「ガリレオ」・湯川教授の謎解きには、岩尾教授のこだわりが
 
 学生時代は挫折を味わった。県内屈指の進学校に入ったが成績は下位。浪人を経て夜間大学に補欠合格した。公式を丸暗記する勉強に違和感を覚え、公式の成り立ちの解明から始めなければ気が済まなかった。その性格は後々、自作のプログラムを組んだり、新たなシミュレーション手法を考案するといった成果に結び付く。

 かつて放映されたテレビドラマ「ガリレオ」では、天才物理学者が数式を駆使して数々の謎を解き明かす場面があった。一つ一つの数式にきちんと意味を持たせているところが、番組を監修した岩尾教授らしいこだわりだ。
 
ロケット誘雷に衝撃。徹底的に基礎を磨き、10年後に花開く
 
 大学院に進むと、指導教員の勧めで雷(光)の研究を始めた。雷雲に向かってロケットを放ち、雷を落とす「ロケット誘雷」を体験し、衝撃を受けた。どんどん研究が面白くなり、化学やパワーエレクトロニクスなど、学問領域を超えて様々な知識を習得。それが自身の可能性を広げた。

 「課題の発見能力には自信があったが、30歳頃まで、それを解決する技術がなかった」と岩尾教授。徹底的に基礎を磨き上げ、約10年後に花開いた。SF6(六フッ化硫黄)ガス遮断器で、ガスを吹き付ける最適なタイミングを解明したほか、金属の錆取りなどに有用とされる真空アークの制御手法を考案するなど、成果が大きく注目されている。

電気新聞2018年8月6日