世界でCCS(二酸化炭素回収・貯留)の導入に向けた動きが活発化している。各国のCCSに関連する法制度や政府支援の整備が進み、経済産業省によると米欧、中国、インドだけで2050年までに年間40億トン超の二酸化炭素(CO2)貯留が見込まれている。現状の世界における排出量の約10%、日本の排出量の約4倍に相当する規模で、世界の多排出企業もCCS活用に動く。日本はエネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC)がCCSのモデル事例を7件採択しており、貯留地開発や法整備で先行する欧米を追う。

 ◇電化難しい領域

 CCS導入によるCO2貯留目標値には各国で差がある。ただ基本的には電化、水素化などが難しい産業、領域でCCSを用い最終的にカーボンニュートラルを目指す方針だ。

 導入に向けて英国では、10月にクリーンエネルギーの推進などを盛り込んだ「エネルギー法2023」を成立させた。CCSの貯留、輸送の事業規制を導入したほか、支援金として、今後20年間で200億ユーロの投資も掲げている。同国は北海に数多くの枯渇した油田、ガス田を抱え、そこに貯留する方針。各プロジェクトを後押しし、30年までに年間2千万~3千万トン、35年までに年5千万トンの貯留を目指す。

 欧州連合(EU)としても今年3月に策定した計画において、石油ガス業界に対し、30年に年5千万トンの貯留容量の開発に向けた貢献を求めた。

 米国は22年に成立したインフレ抑制法(IRA)でCCS事業への税控除を拡充した。このほかドイツ、フランス、インドネシア、マレーシアでもCCS政策の見直し、法整備の検討が進む。

 世界の鉄鋼、化学といった多排出産業も国の動きに同調し、CCSプロジェクトの立ち上げや協力企業との覚書締結に動く。鉄鋼では韓国のポスコがマレーシア石油ガス会社ペトロナスとCCS事業の覚書を結んだ。化学業界では英国のINEOSが、30年までに北海地下に年800万トンを貯留する目標を掲げた。

 日本も水素・アンモニアなど脱炭素技術の利用が見込めない産業にCCSを適用するプランを描く。今年6月にはJOGMECがモデル事例となる「先進的CCS事業」を7件選定。30年に合計で約1300万トンの貯留量を確保する予定だ。

 ◇官民で4兆円を

 モデル事業でCO2分離回収、輸送、貯留の技術を研究し、先行する欧米に追いつく構え。既に三菱重工業はアミン吸収法による分離回収技術を世界に広げている。輸送については新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が世界初となる低温、低圧による船舶用タンクの研究開発を続けている。

 政府が進めるGX推進戦略でもCCSを取り上げており、導入拡大に向けた投資規模は官民で4兆円とも示している。CCSの広がりに本腰を入れている中、経産省幹部はCCSの普及は、カーボンプライシング(炭素の価格付け)の影響を受けやすいと指摘する。分離回収と輸送、貯留の価格がカーボンプライシングより高ければ、「CO2排出を許して、CCSを見送る事業判断もあり得る。排出削減の目的を果たすには、CCSのコスト低減は欠かせない」と語る。

電気新聞2023年12月12日