◇非線形の電圧変動にも対応へ/新方式SVR試作機を開発

 第3回と第4回では、カーボンニュートラルを目指した送電系統について述べたが、次世代電力ネットワークを形成するためには配電系統も重要である。配電系統においては、再生可能エネルギーである太陽光発電(PV)の大量導入が進んでおり、その出力が増加すると、配電系統では電圧変動などが発生する場合がある。このためPV大量導入の進む次世代の配電系統では電圧管理の高度化などの対策が必要になってくる。第5回では、配電系統における電圧管理について紹介する。

 ◇太陽光増と逆潮流
 
配電系統において、PVが増加すると、潮流方向(電力の流れる向き)が逆転して逆潮流が生じ、電圧への影響が生じる。通常、配電線の電圧は、送電距離に応じて下がっていくため、変電所から配電線の末端に向かって、順潮流時には電圧が低下し、逆潮流時には電圧が上昇することになる。したがって、配電系統にPVが大量に導入されると、配電系統の電圧管理は、逆潮流による電圧上昇にも対応が必要となる。

 さらに、最近ではPV導入が多い一部の配電線で、従来は起こっていなかった現象として、配電線の電圧低下現象が確認されている=図1。電圧低下現象は、配電線の逆潮流量が大きく、距離が長い配電線で生じやすい。このため、PVが大量に導入された長距離の配電線の電圧管理では、電圧低下にも対応する必要が出てきた。

 配電系統の電圧対策として、わが国では自動電圧調整器(SVR)が多く利用されている。SVRは、タップ切り替えにより配電線の電圧を制御する装置であり、設置点から末端側までを調整できる=図2。

 PVに起因する電圧変動に対応するため、順潮流と逆潮流の両方に対応したSVRも既に用いられている。しかし現状では、電圧低下現象には対応できていない。従来のSVRでは配電線の電圧推定にLDC方式が用いられており、配電線の電圧変化が距離に比例すると仮定していた。しかし、PVを連系した配電線では、電圧変化が非線形になるため、従来の方式では電圧の推定誤差が大きくなる。

 ◇実配電線でも検証

 そこで、電力中央研究所では、非線形な電圧変化にも対応できる新しい電圧推定方式を提案した。また、提案方式を内蔵した新型SVRの試作機を作成し、実配電線で有効性も検証した。新型SVRは、現行SVRのソフトウェア変更のみで対応できる。設備投資を抑制しながら、非線形な電圧変化にもSVRの自端制御による対応が可能になると期待される。

 前節では自端情報による対策を述べたが、通信を用いた電圧管理も検討されている。配電系統においては、センサーを内蔵した開閉器の導入が進められており、電圧・電流などの計測情報を遠隔で取得できるようになってきている。これらの情報を活用して、通信により電圧制御機器を集中制御することで、複雑な電圧変動にも対応できると考えられる。

 一方で、この集中制御方式を実現するためには、通信網の整備や集中制御システムの導入が必要であるが、設備投資が必要になるとともに短期間では実現できないため、計画的に検討する必要がある。

 近年、需要側リソース(蓄電池、電気自動車、給湯機など)の導入が増えている。これらをリソースとして適切に制御すれば、電圧制御などの配電系統の運用に役立てられると期待されている。需要側リソースの活用については、次回の第6回で述べる。

◆用語解説

 ◆SVR 配電線に直列に接続し、変圧比をタップで切替することにより配電線の電圧を調整する装置。Step Voltage Regulator。

 ◆LDC方式 負荷電流の大きさと配電線の線路インピーダンスから、目標地点までの電圧降下を推定する方式。Line Drop Compensator。

電気新聞2023年11月6日