◇系統増強、混雑緩和へ効果大も/総合的、多面的に評価を

 2050年カーボンニュートラル実現に向け、再生可能エネルギーの主力電源化と電力系統の強靱化が進行中である。23年に策定された広域系統長期方針(広域連系系統のマスタープラン)では、広域連系系統に係る将来動向や広域系統整備に関する長期展望などが示され、長期的観点からエネルギー政策と整合したシナリオを費用便益評価(CBA)で分析し、次世代技術の選択肢も含めた将来系統の絵姿が描かれた。第4回では、CBAに基づく系統増強について紹介する。

 ◇比較し合理的方策

 国内外を問わず、再エネ大量導入に伴う想定外の潮流変化によって系統混雑が増加することが懸念されている。さらに国内では、平常時の系統混雑を許容して電源接続を行う「コネクト&マネージ」の導入に伴い、地域間連系線および地内送電線の混雑増加が想定される。系統運用での混雑解消には一般に発電機の出力調整が行われるが、燃料コストの高い電源との差し替えにより経済的損失が生じるため、系統混雑管理と系統増強の費用を比較した上で合理的な方策を講ずることが望ましい。また、下位系統の混雑に対しては需要家が持つリソースの調整力(ローカルフレキシビリティー)の活用も有効と考えられるため、欧州では「ローカルフレキシビリティー市場」の導入も検討されている。

 系統増強は多額の費用を必要とするが、送電容量の増加により系統混雑を緩和できれば、燃料コストの低い電源(再エネなど)を有効活用できるため、発電事業者は電源稼働率の向上が可能となり、需要家は買電価格を抑制可能となるなどの便益が得られる。

 系統増強の便益には、系統の供給信頼性(アデカシー、セキュリティー)や柔軟性の向上、経済効率性の高い電力取引の実現、化石燃料消費量や二酸化炭素(CO2)排出量の削減、送電ロスの削減など、さまざまな項目が挙げられる。欧州電力系統運用者ネットワーク(ENTSO―E)の費用便益分析ガイドラインでは、系統増強の費用・便益項目が整理され、貨幣価値指標(発電コスト、CO2排出量、アデカシー、送電ロスなど)と非貨幣価値指標(セキュリティー・柔軟性、社会厚生、温暖化対策やエネルギー戦略の目標など)を総合的かつ多面的に評価する手法が示されている。

 しかし、CBAに基づく手法は国内外で適用されているが、多種多様な便益項目を同列に評価することは難しく、CAPEX(資本コスト)とOPEX(運用コスト)に対して貨幣価値として評価可能な便益指標がどの程度になるかを検討しているのが実態である。広域連系系統のマスタープランでは、系統増強に伴う燃料コスト、CO2対策コスト、調整力調達コスト、停電コスト、送電ロス費用の削減量を電力需給シミュレーションで算出し、費用対便益(B/C)が1を上回る系統増強方策を整理しているが、系統の安定性、調整力・慣性力、再エネ出力制御量などの評価は課題として残されている。

 ◇需要家側にも注目

 系統増強計画の策定は、膨大な数の送変電設備、電源設備、需要設備を対象とする大規模で複雑な問題であり、系統セキュリティーを考慮して経済的な系統構成を数理最適化に基づき導出する手法や、需要と供給の不確実性を確率論的に評価する手法、ローカルフレキシビリティーを系統増強の回避に活用する方策など、さまざまな研究が行われている。近年は需要家側リソースの活用が注目されており、蓄電池やEV、ヒートポンプ給湯機、水電解装置などを計画にどう組み込むか、将来の系統形成を検討する上で重要な要素となり得るだろう。

電気新聞2023年10月30日