◆批判強める中露/日本は影響注視

 EU(欧州連合)域内への輸入品に炭素コストをかける炭素国境調整メカニズム(CBAM)が、10月から導入に向けた移行期間に入った。実際に課金が始まるのは2026年以降で、25年末までの移行期間は、対象製品の輸入量と製造過程で排出された温室効果ガス排出量を記載するCBAM報告書の提出が義務付けられる。EUに製品を送り出す輸出事業者にとって収益圧縮につながるため、中国、ロシアが批判を強めている。日本にも影響が出るため経済産業省が制度設計を注視している。

 ◇課金はまだ

 CBAMは、EUの排出量取引と同等の負担をEU域外の事業者にも負担してもらう制度。EU域外に製造拠点を移して、炭素関連の負担を逃れる事業者に対する環境政策でもある。現状で対象製品は鉄や鉄鋼、セメント、肥料、アルミニウム、水素など。対象製品の輸入事業者は、CBAM報告書の提出が求められる。

 課金はまだ始まっていないものの、欧州向けに製品を送り込む中国が、10月を前にして批判を強めていた。中国生態環境部が7月に、「気候問題を無原則に貿易分野に拡大するもの」だと指摘。加えて、一国主義や保護主義を助長すると強調した。

 ロシアは、WTO(世界貿易機関)ルールに違反すると批判。同国の経済発展省は、「CBAM導入の目的はEU域内の産業を国際的な競争から保護する」だと主張。EUによるルールの押しつけに当たると訴えた。

 批判するものの中露とも、現状が移行期間のため今後の動向を注視する方向とも伝えられている。資源エネルギー庁の幹部は、中露の動きに対して「もともとEUは中国をターゲットにCBAMを設けたと伝わっている」と明かし、「狙い通りになっている」とも説明する。

 中露以外にも影響が出る制度のため、EUの排出量取引と同様のルールを設ける国は、EU側にCBAMの適用除外を求める方針。

 ◇公平を求め

 日本も影響を懸念する国の一つだ。13日に日欧産業協力センターが都内で開いたセミナーで、経産省の畠山陽二郎・産業技術環境局長が参加。出席した欧州委員会の幹部に対して、CBAMで輸出に関する手続きが増えるとして、「EU域内企業と公平な制度」を要望。CBAMの詳細設計で建設的な議論も求めた。

 現状のCBAM対象製品の日本からの輸出量は少ないことから「影響は限定的」との見方もあるものの、ある経産省関係者は、他国の動きを注視する。EU向けに製品を輸出してきた中国、インドを挙げて、「この両国がCBAMを嫌ってEU以外に製品を流せば、日本企業の輸出先が奪われる可能性もある」と指摘。「世界的な製品の値崩れなど、市場環境激変の要因にもなりえる」とも付け加える。

電気新聞2023年11月20日