◇欧州型、米国型モデル参考に/余剰活用の在り方検討を

 第1回で述べたノーダル制を採用する米国のISOは、需給調整市場の運営者であり、スポット市場の運営者でもある。米国ISOは、両市場の約定において、エネルギーと需給調整力の同時約定の仕組み(同時市場)を採用している。わが国でも、経済産業省・資源エネルギー庁の市場に関する実務検討作業部会(2022年7月~23年4月)で、前日同時市場に関する提言があり、市場の在り方等に関する検討会(23年8月から)で、詳細な仕組みが検討される。

 我が国では、(1)需給調整市場における調整力の未達などの系統運用に関連する課題(2)自主的取り組みとしての余剰電力の市場供出が全体のメリットオーダーに資していない可能性などの電源運用の課題が顕在化している――と電力・ガス基本政策小委員会で指摘があった。そこでスポット市場、需給調整市場、需給の計画に関して、全体最適を目指す仕組みが必要であるとして、前日同時市場の仕組みが検討されている。我が国の12年以降の電力システム改革では、図1上部の欧州型市場モデルを、加えて、前日同時市場の仕組みの検討では、図1下部の米国ISO型市場モデルを、合わせて参考に議論されるようになってきている。

 欧州市場型モデルは、ゲートクローズまでに、各発電・小売電気事業者が需給を一致させることを前提とした仕組みである。そのために、発電・小売電気事業者が、前日市場や当日市場、相対取引で各々の需給を一致させる=図2の左図。前日市場や当日市場での取引と相対取引がそれぞれ活性化することで、全体のメリットオーダーに資する電源運用となることを目指している。また、系統運用者は、需給調整市場で調整力を確保し、主に前日市場よりも先に取引を実施する。これは安定供給に必要な調整力の未達を恐れたためである。

 一方、米国ISO型市場モデルは、ISOの管轄内の発電・小売電気事業者の全体の需給を一致させることを前提とした仕組みである。そのため、相対契約、セルフスケジュール、市場入札分を含めてISOが運営する卸電力市場で取引がなされる図2の右図。これにより、混雑管理をしつつ、全体のメリットオーダーを実現させようとしている。また需給調整市場をスポット市場と同時に取引し、共に最適化する。例えば、スポット市場での取引を減少させその分を需給調整市場で落札するといった市場間での調整などが可能となる。

 米国ISOのCAISOやERCOTは、需給調整力を、主にDA(Day Ahead)市場との同時市場で確保。一方、PJMは、主にRT(Real Time)市場との同時市場で確保している。なお、22年9月までは、DA市場で余剰となった分も、費用低減効果を狙い、需給調整力として活用していた。しかし、同じ種類の需給調整力であっても、DA市場もしくはRT市場の調達タイミングによって支払われる対価や供出ミスに対するペナルティーが異なっていた。そのため、不要な裁定機会を生じさせ、市場に歪みをもたらすことが指摘された。そこで、PJMは、22年10月よりDA市場とRT市場で需給調整市場の商品を統一し、余剰活用の仕組みを廃止した。これら欧米の市場運営を踏まえ、我が国でも、同時市場と余剰活用の在り方を検討することが重要である。

◆用語解説

 ◆スポット市場 主に、発電事業者と小売電気事業者がkWhを取引する市場。欧州型市場モデルでは、前日市場を、米国ISO市場型モデルでは、DA市場やRT市場を指す。

 ◆需給調整市場 系統運用者が△kW(デルタキロワット)を確保する市場

 ◆セルフスケジュール 発電事業者が、自ら発電スケジュールを決め、価格は入札しない。取引価格は、他の市場参加者の入札価格を基に全体費用最小となるように決定。

 ◆CAISO カリフォルニアの送電系統運用機関

 ◆ERCOT テキサスの電力信頼度協議会

 ◆PJM ペンシルベニア、ニュージャージ、メリーランドを含む13州の地域送電機関

電気新聞2023年10月16日