◇テキサスなどノーダル制移行/費用上振れ考慮し判断を

 再エネなど分散型電源の増加で、送配電網であるネットワークに接続する電源構成と発電パターンが変化している。加えて、需要家の電化やデマンドレスポンスの進展で、需要と系統電力との関係も変化しつつある。それでも、安定供給の確保と、効率的な電力供給の実現のため、ネットワークに求められる役割は変わらず重要である。そこで、ネットワークに焦点をあて、「市場設計」、「送電」、「配電」における電力中央研究所の取り組みを全6回で紹介する。

 ◇混雑管理に2方式

 わが国は平常時でも系統混雑を許容する設備形成へとシフトした。そこで、2020年に卸電力市場を通じた混雑管理方策として、「ゾーン制」と「ノーダル制」が議論された。


 
 ゾーン制とノーダル制の特徴を図1に示す。ゾーン制は、ノーダル制よりも混雑管理の計算量が少ないが、混雑箇所として設定されなかった箇所に、追加的な再給電指令が必要となる。結果として、2回の混雑管理が実施され得る。一方、ノーダル制は、一度に全ての系統混雑を考慮した各ノード価格を決めるため、ゾーン制よりも安価な発電費用となる電源組み合わせを見つけやすい。

 ただし、混雑発生箇所が少ない場合、ノーダル制は計算時間を要するだけとなる。また、短期的な発電費用が同じ電源が多い場合(燃料費ゼロの再生可能エネルギーなど)、市場を通じた混雑管理方策は効果的ではなくなる。

 ERCOT(Electric Reliability Council Of Texas=テキサス電力信頼度協議会)は、価格シグナルによる電源の誘致を理由として、CAISO(California ISO)は、電力危機後の市場再設計を契機として、ゾーン制からノーダル制に移行した。この移行事例から、注意点を紹介する。まず、移行期間の遅延などにより、事前に想定していた費用や便益が変化し得る。例えば、04年に実施されたCBA(費用便益分析)と、08年のCBAにおいて、双方ともノーダル制への移行による便益は正となったが、その便益は23%低減した。これは、ソフトウェア開発費用などの増加や04年のCBAの後の設備増強による混雑減少が理由である。

 ◇価格すぐ下がらず

 CAISOは、ノーダル制開始の1年前に今後1年間で要する費用を想定していた。ノーダル制開始後の確認では、ソフトウェア開発費用に大きな変化はなかったが、関係者へのノーダル制の訓練などの費用が約14%増加した。これら事例から、費用上振れリスクが様々で、上振れ発生内容も多岐にわたる可能性があることが分かる。

 ノーダル制への移行後の年平均の市場価格はすぐに低下しなかった。ERCOT全体やERCOT内の西部ゾーンでは、10年のガス価格増加、11年は寒波と熱波による需要増加のため、市場価格は高くなった。12年は、ERCOT全体の市場価格は09年よりも下がったが、需要増加で西部ゾーンの市場価格は高くなった=図2。このようにノーダル制による市場価格低減効果はすぐに現れるわけではない。移行の効果を見定めるためには、長期的な評価が必要となる。

 わが国でノーダル制への移行検討の際には、CBAが実施されるが、移行の遅延と費用の上振れを考慮した移行判断が重要である。また、再エネに対して立地誘導効果が小さいことにも留意すべきである。

◆用語解説

 ◆系統混雑 送電線の運用容量の制約により発電に制約が生じている状態。

 ◆ゾーン制 あらかじめ特定した送電箇所に対し、卸電力市場を通じた混雑管理方策を実施する仕組み。ゾーン内の混雑管理には、系統運用者による再給電指令などを活用。

 ◆ノーダル制 全ての送電線に対して、卸電力市場を通じた混雑管理方策を実施する仕組み。

 ◆再給電指令 系統運用者が指示して、電源出力の下げ調整と上げ調整を実施する仕組み。

 ◆ISO(Independent System Operator) 送電系統の運用・管理を行う独立した組織。

 
電気新聞2023年10月2日