二酸化炭素(CO2)吸収源の一つで、海草や海藻類など海洋生態系による「ブルーカーボン」の価値に関心が高まっている。国内の沿岸域で「藻場(もば)」と呼ばれる海藻類の群生地を保全・再生する活動が広がっており、「Jブルークレジット制度」の認証量は年々増加。クレジットの取引価格も高水準で、J―クレジットの「森林」と比較すると10倍以上の値がついている。クレジットの保有者には、大手エネルギー企業も名を連ねる。

 ◇漁業守る意義

 ブルーカーボンは大気中のCO2を海草や海藻類が光合成によって吸収し、そのまま海中で貯留する考え方。CO2を吸収・貯留する藻場は、地球温暖化による水温上昇などの影響で減少傾向にある。藻場の減少が続くと魚の産卵や稚魚の成育環境が悪化し、漁業にも影響がでる。これを打開してCO2吸収源も拡大させるため、企業や自治体、漁業関係者などが連携した藻場の再生プロジェクトが各地で展開されている。

 ブルーカーボンによるCO2吸収量を認証する「Jブルークレジット制度」は、2020年度に創設。クレジットの認証や発行に関わる手続きは、国土交通省の認可法人であるジャパンブルーエコノミー技術研究組合(JBE)が運営している。

 認証量は20年度1件・22トン、21年度4件・80トンと続き、22年度は21件・3733トンと大幅に増加。取引価格も1トン当たりの平均で20年度が1万3157円だったのに対し、22年度は8万4198円と大幅に引き上がった。東京証券取引所が今月開設したカーボン・クレジット市場で、「森林」が1トン当たり7千~8千円で推移しており、その差は10倍以上となる。

 JBEの公表資料によると、クレジットの保有者は海運や港湾に関わる企業に加え、コンビニや銀行、通信など幅広い企業が集まる。エネルギー業界では、中部電力、静岡ガス、広島ガスといった大手企業が活用している。

 ブルーカーボンを推進する国交省港湾局海洋・環境課の青山紘悦・港湾環境政策室長は、クレジットの認証数や価格動向について「CO2の吸収だけでなく地域づくりや環境教育、食料供給など多面的な価値が評価されているのではないか」とみる。23年度の認証数も増加する見込みで、年に1回だった審査を複数回に増やす。初回の審査結果は12月にも公表される見通し。青山室長は「クレジットの認知度は確実に高まっている」と評価する。

 ◇産学官連携へ

 国交省はブルーカーボンのさらなる拡大に向け、本腰を入れて議論を進めている。産官学の連携強化を促し、取り組みを活発化させるための新たな枠組みを今年度内にも立ち上げる計画だ。年度内に3回開催する有識者会合を通じて、詳細検討を進める。先進的かつ持続可能な優秀事例を表彰する「全国海の再生・ブルーインフラ賞」も創設した。

 ブルーカーボンの取り組みは、民間企業と沿岸域の自治体、漁業関係者をつなぐ一つの有効なツールといえる。様々な海域で洋上風力発電の開発が進む中、事業者と地域との良好な関係構築はより一層重要になる。脱炭素社会の実現に貢献しながら様々なメリットが得られるブルーカーボンに、今後も期待が高まりそうだ。

電気新聞2023年10月23日