電気新聞では9月28日、「GX時代の電力DXを考える」をテーマに「電気新聞フォーラム2023」を開催しました。激流の中にある電気事業の諸課題について、政府関係者や有識者、企業が講演。また、事業者による座談会も行われました。
 電気新聞フォーラム2023の模様を4回に分けて紹介します。
 
 「GX時代の電力ビジネスとDX」をテーマにした座談会では(1)エネルギー市場の今をどう見るか(2)GXの潮流(3)DXへの期待(4)将来の電力ビジネス展望――の4つを論点に設定し、登壇者がそれぞれの立場から意見を表明。現状をどうとらえ、複雑化する課題にどう挑むかなどを語ってもらった。
◆登壇者(五十音順、敬称略)
・小川博志氏(関西電力執行役常務)
・都築実宏氏(エナリス代表取締役)
・松尾豪氏(エネルギー経済社会研究所代表)
・山本竜太郎氏(送配電網協議会理事・事務局長)
・渡部哲也氏(JERA取締役・副社長執行役員)
 司会=佐藤貞(電気新聞主筆)
 

◆【論点3】DXへの期待

 ◇新技術導入へ全社協働で 山本氏/◇「つながる」通じ付加価値 渡部氏

 

 司会 送配電インフラの保守・運用などにおいて、DXの活用状況は。また、20年代後半の実用化に向けて準備を進めている次期中央給電指令所システムにより目指す効果は。

 

 山本 保守の面では、ドローンやウェアラブルカメラなどを使った遠隔支援、画像解析による劣化診断など新技術を取り入れている。これまでは事業者ごとに対応していたが、効率的かつ迅速に進めていくため、全社協働での検討も始めている。次期中給システムに関しては(1)システム伝送仕様の統一による発電事業者も含めた運用上の効果(2)需給運用のさらなるメリットオーダーの追求(3)レジリエンス(強靱性)向上(4)制度変更などに対応するためのシステム改修における拡張性・柔軟性の向上――の4つの効果を期待している。

 

 司会 分散型リソースを活用する「E―Flow」を設立するなど、関電はDXに積極的に見える。

 

 小川 当社では18年に社長をトップとするDX戦略委員会を立ち上げ、全社的にDXを推進してきている。E―FlowについてはDXを駆使してエネルギー分散化の課題に挑戦する企業として今年4月に設立しており、VPP、系統用蓄電池、再エネアグリゲーションが事業の柱。この事業運営を支えるのはAIを搭載した分散型サービスプラットフォームだ。

 

 司会 「エナリスみらい研究所」では先駆的な研究を進めていると聞く。

 

 都築 例えばブロックチェーン技術を使った取り組み。自家消費型の家庭用太陽光の環境価値を顕在化させ、J―クレジットに変換する仕組み作りに生かしている。母体のKDDIと当社は、5G(第5世代移動通信システム)の通信と「マルチアクセスエッジコンピューティング(MEC)」というネットワーク技術を組み合わせ、分散型リソースをリアルタイムで制御する技術を開発。今後の調整力として期待できる低圧リソースの制御に有効な技術であり、実フィールドでさらに磨きをかけたい。

 

 司会 火力電源の競争力強化、保安のスマート化に向けて、DX関連技術の活用余地は。

 

 渡部 デジタルの要諦は、今まで分離されていたものが「つながる」ことにあると考えている。「時を超えてつながる」という面では、過去から未来を予測することで異常兆候を早期に発見する。「空間を超えてつながる」という面では離れた場所で発電所の仕事をする。「あいまいなものを形につなげる」という面では、ベテランが肌感覚で判断していたものをデータとして標準化する。それぞれ「つながる」ことで付加価値を生み出すことができる。

 

 司会 GXとDXの潮流は、電力需給にどのような影響をもたらしそうか。

 

 松尾 自動車がEVに、空調がヒートポンプに置き換えられていくと、電力需要に相当のインパクトがある。産業面では、半導体工場、データセンター、電炉が需要を押し上げていくだろう。需要増を見据えた「在るべき供給力」を検討する余地があると思う。

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